【部長対談】SNSマーケティングの本質的な考え方とは? SNS広告とアカウント運用の共通項
2017/02/09
2014年のファンゲート(※)廃止によって、Facebook関連サービスを提供していた数多くの企業は方向転換を迫られました。今回の対談のお相手であるアライドアーキテクツ株式会社もその1社。
現在ではSNS広告に圧倒的な強みを持つ広告事業を展開しているほか、キャンペーン支援や運用代行などSNS関連サービスを幅広く提供し多くのクライアント企業様を抱えています。
当メディアの運営元である株式会社ガイアックスも、当時はFacebookアプリに力を入れていました。しかし同タイミングで事業の舵を切り、今はSNSの運用代行に特化しています。
本対談では、それぞれの特化している領域の変遷と、企業のSNS活用の今後についてお話させていただきました。
※ファンゲートとは:Facebookページへのいいね!の有無に応じてコンテンツを出し分ける仕組み。コンテンツの続きを見るためにいいね!を要求するなど、Facebookページへのいいね!を集める手法としてかつて重用された。
- ■目次
- プロフィール
- SNS広告市場の変遷:今の勝ちパターンは確立されつつある
- SNS運用市場の変遷:プラットフォームの増加でニーズ拡大
- 2017年のSNS市場展望と、企業が理解しておくべきSNSの本質
プロフィール
村岡 弥真人氏:アライドアーキテクツ株式会社 マーケティング事業本部 AD-Tech事業部 部長
管 大輔:株式会社ガイアックス ソーシャルメディアマーケティング事業部 事業部長
SNS広告市場の変遷:今の勝ちパターンは確立されつつある
SNS広告はコンバージョン獲得のインフラに?
管:現在はSNS広告運用を事業のメインとしていらっしゃいますが、市場はどのように変化していると感じていますか?
村岡氏(以下敬称略):大きな変化として感じるのは、SNS広告がコンバージョン獲得のインフラになっているという点です。2〜3年前はGDN・YDNであまった予算をSNS広告に投資するというスタンスが主流でしたが、今はSNS広告の方が従来広告と比べて獲得効率がよく、数もとれているという企業もかなり増えています。
管:SNS広告の効果はGoogleやYahoo!より化けるんじゃないかというのは私も感じています。もともとSNS広告は「CPAはいいけど数がとれない」という印象もあったかと思いますが、数もとれるようになってきているんですね。
村岡:すでにGoogleよりもFacebookからの獲得件数が多いというお客様もいらっしゃいます。SNSと相性がいい企業、例えば飲料とか食品とかは今後どんどんそうなっていくんじゃないかと思います。
結局、今の多様化した消費行動や判断基準にマッチした媒体がSNSになっているんですよね。昔は消費行動もマーケティング手段もある程度限られていたので、どのメディアならどれくらいリーチできるかが予測できた。
でも情報量の増加に伴って我々が情報を得る選択肢が無数になる中で、今は単一媒体で「みんなが目にする」広告は無くなっているので、リーチできない層が増えています。SNSは特にモバイル上での可処分時間が圧倒的に多い。だから、これまでの広告でリーチできなくなってしまった層にリーチできるのがSNS広告なんですよね。
SNS広告成功の鍵はタイムラインになじむクリエイティブ
管:確かに消費者の変化に敏感な企業ほど、SNSを重視して予算を投下しているかもしれませんね。何か、御社のお客様でSNS広告の獲得効率が上がった事例などを教えていただけますか?
村岡:これは飲料メーカーさんの事例ですが、もともとGDN・YDNで成績の良かったバナーをSNSに使っていたんです。
でも明らかにSNSにいるユーザーの文脈に合っていない広告色の強いバナーだったので、SNSのフィードになじむような、一般ユーザーの投稿に近しいバナーに変えさせていただきました。そうしたらたった3ヶ月でCPAを下げながら獲得数を25倍まで増加させることができました。これがSNS広告の最大の特徴だと考えています。
管:バナーのクリエイティブを変えるだけでそこまで成果が変わるんですか?!
村岡:実際、クリエイティブの影響がもっとも大きいです。ほかの運用型広告も手がけている代理店だと、他媒体での勝ちパターンをSNS広告に合わせることが多いので、GDNのバナーを転用したり、同じアカウント設計で出稿を行います。でもこれは意外と成果が出ないことが多い。
そもそもターゲティングや最適化のテクノロジー強化はFacebook自体がどんどん上手くやってくれるようになっているので(苦笑)、アカウント構造が効率に及ぼす影響が他媒体に比べると比較的薄いんです。もちろん重要ではありますけど。
なので、今SNSの中で「ナチュラルにコミュニケーションをとる」ために重要なのはクリエイティブです。もしソーシャルでの体験を損なうバナーを出していたら、適切なユーザーに届いているにも関わらず、ブランドの好感度が下がってしまいます。
例えば、「このお茶好きなのに、何でわざわざFacebookに広告なんて出してくるんだろう?」と感じさせてしまう。広告枠なら無視するだけですが、フィード上の友人の投稿の間に表示されるSNS広告の場合、悪い印象が残ってしまうんです。
そこにいるにユーザーに合わせた“なじむ広告を作ること”、これが今たどり着いている答えです。
管:そこでUGC(※)の活用が重要になってくるということですね。
※User-Generated Contentsの略。Webサイトの利用者(ユーザー)によって制作・作成されたコンテンツの総称
村岡:そうですね。根本は「SNSのフィールドになじむバナーが生み出される世界観の実現」で、それに今一番近いのがUGC。
単純にUGCを活用するサービスというのではなく、広告効果の高いUGCを発見できる仕組みを「Letro(レトロ)」(同社の新サービス)で提供していきたいと思っています。
何百万とあるユーザーコンテンツの中から、企業やブランドが自分たちに最適なユーザーコンテンツを見つけ出して、ユーザーに広告で届けるっていうところまでを、Letroで設計していきたいです。
管:UGCならなんでもいいってわけじゃないですもんね。しっかり広告として成果を上げられるUGC活用は注目していきたいです。
SNS運用市場の変遷:プラットフォームの増加でニーズ拡大
なぜ運用を外注するのか
村岡:御社は広告ではなく運用代行がメインなんですよね。広告は成果が明確なのでクライアントにも伝えやすいですが、運用だとなかなかすぐに成果が出にくいのかなと思っていて。そのあたりどのように説明しているんですか?
管:それは本当によく言われるのですが(笑)運用を外注する必要性を2つの切り口から説明します。
1つ目はノウハウ。SNSのプラットフォームは増えることはあっても減ることはなくて、それぞれに文化や必要とされるコンテンツが違う。弊社にはその使い分けのノウハウがあるので、それを御社でも活用してください、と。
2つ目は、効果測定への考え方を変えるべきだということ。SNSへの投資をSNSだけで回収するのは厳しい。なぜなら、アプローチ対象はニーズが顕在化してない検討層や潜在層だからです。直接的な成果が見えにくくてもWebプロモーション全体に影響があるはずなので、全体での指標として成果を捉えるべきだとお話しています。
あとは単純に導入コストを上げない、価格メリットを出すことです。作業部分は外部のリソースを上手く使い、コンサルタントは本来の業務に専念することで、ハイレベルなノウハウを低単価で提供できるような体制を作っています。
村岡:なるほど。やはり運用の市場もここ数年で変化しているんですか?
管:去年の後半から、すごくニーズが増えています。やはりプラットフォームが増加している影響が大きいです。Instagramはもちろん、LINEのタイムラインも結構見られてるということで、活用したいというニーズも増えて。2011年からサービス提供をはじめて、やっと5年目で市場が確立されてきたと感じています。
村岡:運用を外注することで数値が改善した事例も知りたいです。
管:運用視点でいうと、SNSの良さはストックできるところなんです。1回ファンになってくれたユーザーさんに日々コンテンツを提供して関係性を築いて、ゆくゆくはコンバージョンに至るように育成していくのがひとつ重要な視点だと考えています。
それがうまくいったところでいうと、不動産賃貸系のサービスの事例があります。
まずLike Ad(Facebookページへのいいね!を増やす広告)で1万~1.5万人までファン数を増やす。そこからオーガニックの投稿で部屋探しのノウハウや、お部屋のレイアウトついてのノウハウなど、興味を引くコンテンツをどんどん配信して、関係性を作っていきました。
送客先のコンテンツサイトにはFacebookピクセルを仕込んでおいて、コンテンツを見たユーザーさんに対して刈り取り型のFacebook広告を出すというストーリーを作っていたんですが、それが綺麗にハマりました。
刈り取り型の広告だけだったときは4,500円だったCPAは1,300円まで下がっていて、最初のLike Adの費用を入れてもCPAが2,000円を切りました。最初にLike Adに予算を投下して運用していくことで、結局はCPAが下がったということです。
ほかにも同じクライアントで、Facebookにオーガニックで投稿したらすぐその日中に20件の問い合わせがあったこともありました。
村岡:その投稿経由でですか?!
管:そこはうまく測定できないのですが、コールセンターやWebサイトへのお問い合わせが投稿のタイミングと一致していたので、影響している可能性は高いと思います。
オーガニック投稿でこれだけの反応があると、CPAは本当に安くなっていきますよね。でもそれは関係性作りがあってこそなので。ユーザーさんの育成に注力して成果を出していくことで、こういったストーリーの重要性を示していけたらと思っています。
村岡:SNSを通した育成で難しいと感じるのは、1万人ファンを集めたからといって、その全てにリーチできるわけじゃないとこだと思うんです。いいね!やフォローをされていても、実際のファン数といえるのか?という。でも実際に成果が上がってるということは、しっかりとファン化してリーチできているということなんですか?
管:リーチ率というか、囲い込んだユーザーさんに対してしっかり情報を届けるっていうのはかなり工夫しています。
コムニコさんが2015年の5月まで企業別の平均リーチ率を出していたんですが、それによるとだいたい20%を切るんですよね。10万人以上になると10%を少し超えるくらいとか。
弊社のクライアントはその倍は確実にいきます。毎回の投稿をいかに届けるか、かつその投稿がスルーされずにエンゲージされるかというところは、ものすごく研究しているので。
例えば、Instagramのハッシュタグで検索した時に出てくる9つの人気投稿に載るロジックを計算してデータ化したものを記事でも発表しています。そこに載ることで新規の流入も増えますし、そこで反応が上がるほど投稿が上位表示されて既存のフォロワーにも届きやすくなるんです。
ほかにも公式のLINEアカウントを全てフォローして投稿時間を調査しています。12時に投稿している企業ばかりの業界があったり、一方で深夜帯に投稿が多い業界があったり、調べると面白いんです。こういったデータはすごく重要なので、地道に研究しています。
村岡:弊社でも運用代行は積極的に手掛けているので参考になります。かなりマニアックですが(笑)面白いデータですね!
2017年のSNS市場展望と、企業が理解しておくべきSNSの本質
広告と運用、両者に共通する本質的な考え方
管:お話を聞いていて思ったのは、企業の広告とユーザーをクリエイティブで繋いでいくという視点は、運用にも通じてくるな、ということです。私たちはオーガニックの投稿をいかに届けるかを追求しているわけですが、結局それって「企業の伝えたいこと」と「ユーザーが知りたいこと」の重なる部分を見つけて、伝え方を最適化していくという本質は同じだなと。
村岡:広告もコンテンツも投稿も、本質は変わらないんですよね。
SNSの面白い部分は、あらゆる目的の広告を1つのプラットフォームでできるというところだと思っています。今まではTVCMは認知獲得で、刈り取りならリスティングで、というふうに、目的によって広告枠を変えるのは当然でしたよね。
でもSNSは全てに対応できる可能性がある。広告でリーチする以外にも、運用で囲いこんでファン化したり、反応があったユーザーには刈り取り広告を出したり色々な使い方ができます。
そしてそのプラットフォームの根底にあるのが企業とユーザーのナチュラルなコミュニケーションなので、具体的なサービスやベクトルは違っても、考えていることは同じなんだと思います。
だってユーザーの投稿なんて、一番広告効果高いじゃないですか。マーケティングの本が突然WEB広告で紹介されても買うことって少ないと思いますが、Facebookで管さんがおすすめしてたら買いますから。信頼している人のレコメンドの効果はどんな広告にも勝りますよね。
でもユーザー投稿は、次の日には埋もれてしまう。その訴求パワーと広告の持続力を組み合わせるのがSNS広告であって、Letroというサービスとしてやらせてもらってる背景ではあります。
管:実際、SNSをどう使えばいいのか、SNS上でどう振る舞えばいいのかを本当に理解できている企業は、代理店も含めてまだまだ少ないと思うんですよね。そういった考え方は、もっと広げていきたいです。
これからも伸び続けるSNS市場で何を実現するか
村岡:ソーシャルのあり方というか、その重要性をもっと伝えて、適正な市場規模まで押し上げたいですよね。今SNSの市場規模は1,200億から1,500億くらいと言われていますが、ネット広告だけでも1兆円、広告費全体なら6兆円もあるわけで、ユーザーがSNSに割いている時間を考えたら絶対にもっとSNSに広告費が投下されていくと考えています。
いつか現状のバランスが変わってSNS広告や運用のニーズがさらに高まってきたときに、SNSを本当に理解できている会社じゃないと選ばれなくなっていくと思います。
もうすでにソーシャルでモノが売れる時代は来ていて、それをまだみんなが知らないだけ。だから別にもう広告じゃなくても良いんだろうな、と思うんです。そのときに選ばれる存在になりたいので、ソーシャルを土俵とした適切なマーケティングのあり方を確立していきたいなとは思います。
管:あり方を確立して広げるというのは弊社もやりたいですし、メディア運営のミッションにもそれをずっと掲げています。眉唾もののノウハウも出回っていたりしますが、そこをうちは地道に検証して信頼できるデータを提供していきたいですし、手間がかかる運用の部分のノウハウも伝えていきたい。
特に地方の企業だと予算も聞ける場所もないと状況だと思うので、そこを助けていくことも大事にしたいです。私たちがSNS市場に対して貢献できるところってどこなのかなっていうのは、常に考えていかないといけないところですよね。
この記事を書いた人:ソーシャルメディアラボ編集部