【連載企画】広告主は「モバイル時代」とどう向き合うべきか。真の意味でモバイル最適化を啓蒙するフェイスブック クリエイティブショップの思い

2017/12/08


昨今、Facebook/Instagramともにフィード上で動画コンテンツが増えるなか、これらに適切なクリエイティブ作成に難を抱える企業が出てきています。テレビCMをそのまま縮小しただけの動画のように、誰が、どのような環境で視聴するか加味されていない一方的なクリエイティブでユーザーを共感させることは、思いのほか厳しいようです。


今回はそのような悩みに答えるべく、フェイスブックジャパン クリエイティブストラテジストの栗山修伍氏に、モバイル時代でさらに効果を発揮できるクリエイティブについて、インタビュー2本立てでお話をお伺いしています。


Interview / ソーシャルメディアラボ編集長 大久保亮佑

Text & Photo / ソーシャルメディアラボ編集部 宮本洋輔


    ■目次


  1. プロフィール

  2. ブランドの思いを形に。クリエイティブに携わる栗山氏の原点。

  3. 企業共通の課題は、Facebook/Instagram広告への最適化

  4. 「Facebook/Instagram✕モバイル」で押さえたいクリエイティブの基本

  5. クリエイティブ作成にはターゲットごとのアプローチが不可欠


1. プロフィール


フェイスブック ジャパン クリエイティブショップ クリエイティブストラテジスト 栗山修伍氏



2. ブランドの思いを形に。クリエイティブに携わる栗山氏の原点。


大久保:まずは、栗山さんご自身についてと、栗山さんが「クリエイティブショップ」でされていることをお聞かせください。


栗山氏(以下、敬称略)私が在籍している部署はクリエイティブショップと呼ばれていて、世界40カ国に約200人が在籍しています。日本では2014年にクリエイティブショップが発足し、データを基にクリエイティブに活かすインサイトを作る「データサイエンティスト」と、私のようにデータから得られたインサイトをどうクリエイティブに活かしていくかを戦略的に考える「クリエイティブストラテジスト」で構成されています。


例えば、テレビCMをモバイル用に最適化するための方法やノウハウについてのコンサルテーションをクライアントに行ったり、もしくは代理店と共同でクリエイティブ制作したりすることもあります。


大久保:もともと栗山さんはクリエイティブの仕事をされていたのですか?


栗山:ちょっと変わっているんですけど、もともと車のデザイナーになりたくて。例えばヨーロッパの車ってブランドを特に大切にしていて、ブランドが持つ、自分たちの歴史を戦略的に残しながら新しいものを作るところに感銘を受けていました。色々なブランドと関わる仕事がしたいと思い、以来こういったクリエイティブの仕事をさせてもらっています。


大久保:現在はそういった、ブランドの思いをクリエイティブに反映させていく仕事を一貫してされているんですね。


栗山:そうですね。例えばこれまで出稿されていた広告を振り返ってみて改善すべき点などをきちんと分析した上で、次回は最適なクリエイティブを出稿できるようにしたい、そういうところまで踏み込んでやりたいという思いがあります。


3. 企業共通の課題は、Facebook/Instagram広告への最適化



大久保:現在関わっている代理店やクライアントは、ある程度絞られた特定のクライアントなのでしょうか?例えば、今出稿額の多い上位何社みたいな形など。


栗山:出稿額が影響してくる事もありますが、広告費に関わらず、SMB(Small and Medium Business:中小企業)のコンサルティングにも携わっています。例えば、費用はあまりかけられないけれど効果的なクリエイティブを作りたいという企業に対して、シンプルで簡単なクリエイティブの作り方についてのコンサルティングも提供しています。


大久保:先ほどテレビCMをモバイル化するっていう話にもあったのですが、企業のクリエイティブに対する課題や、相談を受ける際に何か共通しているものはどういったものがありますか?


栗山:テレビCMをFacebookやInstagram広告のクリエイティブに最適化するための考え方や、実際にどういうふうに最適化するのがベストなのか、という部分についてはまだ課題を感じていらっしゃるクライアントが多いように思います。


そのようなクライアントに対して我々が推奨しているのは、フィード上で音なしでも伝わる内容にしましょうということ。あとはやはりフィードで広告に接触する時間は非常に短かいことが多いので、いかに短い時間の中で、見ている人のアテンションをひいて、指を止めてもらい、そのクリエイティブを見てもらうのかなど、そういうメソッドを提供しています。


大久保:FacebookでもInstagramでも、この5年の中でウケるクリエイティブの変遷はいかがですか?


栗山:モバイルからのアクセスはFacebookでは90%、Instagramにおいてはほぼ100%というように、モバイル上での利用が非常に増えてきています。それにあわせて動画の視聴もモバイル上での消費が非常に大きくなっているのが一番の特徴です。モバイル上で見られている動画の中でも指を止めてもらえるような、魅力的なコンテンツにするということを重要視しています。


最近では、テレビCMを撮影する時点でモバイル用に最適化しやすい画角で撮影するとか、そういったことを始められているクライアントも増えています。また今後もそういう傾向が強まるのではないかと思います。

そうした方が始めから画角も決まっているので、手早く効果的なコンテンツにできるというのが一つあります。


4.「Facebook/Instagram✕モバイル」で押さえたいクリエイティブの基本



大久保:「Facebook ×モバイル」という観点で、クリエイティブ作成時に広告主に対して押さえておいてほしいポイントを教えてもらってもいいですか?


栗山:基本的なところでは、モバイルがもつ没入感ある表現でエンゲージメントを高めるというのが重要です。例えば先ほど簡単にご紹介した、音無しでもコンテンツの内容が理解できるようにキャプションを入れてあげるということがその一つであったり。


また、テレビCMは、最後に重要なメッセージがくることが多いんですが、その最後のメッセージを最初に持ってくることで、何を伝えたいのかが一瞬でわかるというのも重要。


あとは、カルーセル広告やキャンバス広告といった様々なフォーマットの中から、広告出稿の目的に合わせて最適なフォーマットを利用するという点だと思います。広告キャンペーンの目的や訴求内容によって、例えばキャンバス広告で様々な側面からブランドや商品を見せるほうが適していることもあれば、カルーセル広告で横並びに情報を一つずつ紹介していくほうが適していることもあります。


大久保:また動画広告を作っていくのが簡単になり、効果的でいいとは思うんですけど、あえて静止画の部分で何かアドバイスするとどういうところでしょうか?


栗山:やはり静止画だと、基本的にアテンションを引くという観点では動画より劣ることは否めません。カンタージャパンの調査によると、Facebookの静止画広告に比べて、動画広告による認知は+8.7%も大きいという調査も出ています。


ただ、静止画をうまく活用する方法もあります。例えば我々が提供している手法に「Create to covert(クリエイトトゥコンバート)」というものがあるのですが、既存の静止画を数点組み合わせ、一部だけアニメーションをつけたり、モーションを入れたりするだけでも、簡単で、非常に効果があるクリエイティブに変えることができます。


大久保:「Instagram×モバイル」のクリエイティブでの基本的な考え方というのはいかがでしょうか。


栗山:そうですね、基本的なクリエイティブの作り方としてはFacebook広告と同じですが、Instagram上でコミュニティが投稿しているコンテンツ自体がハイセンスなのもの中心から、日常の面白いものや遊び心のあるものに変わってきています。我々の中では「Fun & Play」という言い方をしていますが、そういったプラットフォームの変化に応じて、広告のクリエイティブも遊びを加えた、よりカジュアルな表現を求められるようになってきているところがあると思います。


持っている素材がInstagram向けでないと思われるような場合でも、ちょっとイラストと組み合わせてみるだけで面白いクリエイティブにできたり、そういった意味でのハードルはかなり下がってきていると思うので、ぜひ使ってみていただきたいと思っています。


大久保:ストーリーズのクリエイティブに関しても、何かこう栗山さんが思うこととかってありますか?


栗山:利用者が広告を見たときに、一番初めにその広告が何を伝えようとしているのか、何を促そうとしているのかが明確に伝わるようなメッセージを出してあげることですね。


例えばアプリインストールにつなげたい場合は、そのアプリを本当インストールにしたくなるようなクリエイティブになっているか。また、インストールを促したい場合、そのアプリがどういうものなのか、簡潔に冒頭でわからないと絶対に興味をひかないと思うんですよ。また、ストーリーズは画面下にコールトゥアクションのボタンがあるので、そこに注目がいくようにしてあげるなど、ストーリーズの特徴を活かした作り方を推奨しています。


大久保:広告主さんに対して、誤ったクリエイティブの考え方や改めた方が良いと思う部分、啓蒙している点はどのような点でしょうか。


栗山:やはり1番大きいのはテレビCMですね。私がよく申し上げるのは、撮影が決まっているのであれば、モバイル用の広告をどうするのか、初期の段階から検討していきましょうということ。テレビCMをFacebook・Instagram向けに最適化するなら、サイズは「1:1」なのか縦長なのか、広告フォーマットの種類はどれにするのか、などがあらかじめ決まっていれば、より効果的なクリエイティブ制作ができます。


既に撮影が終わっている場合には、クリエイティブショップの担当がモックアップを作成し、例えば30秒あったテレビCMを10秒程度の長さに編集して、「最も訴求したい内容はここですよね。」と実際にクライアントにお見せするんですよ。そうすると納得していただけることが多い。どちらかというと、口頭で説明ばかりせず、クリエイティブのサンプルを実際に見せてどんどん理解してもらうというのが、私たちが今取り組んでいる活動の一つです。


5. クリエイティブ作成にはターゲットごとのアプローチが不可欠


大久保:実際に関わった案件の事例をお伺いしてもよろしいでしょうか


栗山:JAL(日本航空)さんの事例をご紹介します。Facebook広告を打つにあたって、「若い女性のJALに対する好意度を高めたい」という目的がありました。Facebookでは人ベースのターゲティングが可能なので、データをもとにターゲット層のインサイトを掴み、戦略的にクリエイティブを作成する手法をとりました。例えば、若い女性をセグメントで切るだけでなく、過去のキャンペーンにおいて、リンクをクリックした人としなかった人を比較したりします。



利用者が何に興味があって何に興味が少ないかなどをデータとして抽出し、それらのデータを項目ごとに分けていきます。

例えば、旅行に興味がある、スポーツに興味がある、買い物に興味がありますといったものから、車は高級車も好きだけど実はMiniも好きだ、とかそういうことがわかってきます。



そして、これらを基にペルソナを作ります。例えば、ベンツとかBMWは幅広い層に好意度が高い傾向がありますが、その中でもMiniを選んでいるなら、結構自分の中でしっかりとした価値観やこだわりを持っている人だと考えられます。JALさんも実は移動品質にこだわっている。例えば荷ほどきをした時に、スーツケースの中がぐちゃぐちゃにならずにきちっとした状態で戻ってくるといった、移動中の品質にこだわる点が共通している。それなら、こういった「自分独自のこだわりを持つ人」に「JALのこだわり」が伝わるようなクリエイティブにしましょうという、という考え方をしていきます。



では、女性はどうなのか。この方は25歳独身で、ハワイが好きだけど、どちらかというとハワイの中でも、文化遺産やフラダンス体験を好むなど、ただ単にアラモアナでショッピングするっていう人じゃないということがわかってくる。それだったら彼女に対して最適なクリエイティブはこうだよねと、それぞれペルソナに適した形で作ってあげる。



このように、それぞれのターゲットに応じた最適なクリエイティブ制作を行いました。その結果、若い女性はJALに対する好意度が11%向上するなど、効果もしっかりと出ています。これがFacebookのデータを使って戦略的にクリエイティブを作成し、高いターゲティングを利用してキャンペーンを成功させるという例のひとつですね。



大久保:なるほど、これ普通の代理店じゃできないことですよね。


栗山:そうですね、このような手法はFacebookが持つデータがないとできません。正確性の高い、人ベースのターゲティングができるからこそ、そこに合わせたクリエイティブを作ることが可能で、これは弊社の強みの一つだと思います。企業にとっても、やはりデータをしっかり見てクリエイティブを作成することで納得感も出てきます。ふわっとしたコンセプトではなくて、確実にその人たち(受け手)がいるのが見えてくるので、作っている側としても面白いですよ。


 


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この記事を書いた人:ソーシャルメディアラボ編集部

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