口コミを制する者が中国マーケティング制する!中国のSNSの現状とは
2017/01/24
2020年の東京オリンピックに向けて、今後さらに盛り上がることが予測される訪日中国人向けのインバウンドマーケティング。しかしながら中国では、日本では一般的ではないSNSが使われていたり、消費動向が目まぐるしく変化していたりと、効果的な施策がわからず苦労しているという方も多いのではないでしょうか?
そこで今回は、中国人向けのインバウンドマーケティングに関するソーシャル・ビッグデータ分析に精通しており、訪日中国人の消費動向レポートを週次で発行する『図解 中国トレンドExpress』というサービスも提供している株式会社ホットリンクコーポレートコミュニケーション本部長兼トレンドExpress編集長の大上 宝恵氏にお話を伺いました。通常は有償のレポートの一部をお見せしつつ、中国独自のソーシャルメディアの使い方や、各SNSの特徴などをご解説いただきます。
Interview / ソーシャルメディアラボ編集長 大久保亮佑
text / 青木麻里那
- ■目次
- プロフィール
- 中国人は動画大好き?中国独自のSNS事情
- 理解しておきたい!中国で代表的な6つのSNSの特徴
- 口コミはいつ利用される?訪日旅行のカスタマージャーニー
- 訪日中国人向けマーケティング今後の展望
プロフィール
大上 宝恵氏:株式会社ホットリンク コーポレートコミュニケーション本部長 兼 トレンドExpress編集長
中国人は動画大好き?中国独自のSNS事情
決済、診察予約、タクシー配車……。インフラ化するSNS
大久保:まず中国のSNS事情についてお伺いしたいのですが、今中国人が一番使っているSNSはなんですか?
大上氏(以下敬称略):色々なSNSが新しく出てきたりしているものの、やはりWeibo(微博)とWeChat(微信)が二大勢力です。
個人間のチャットや情報収集など元々のSNSとしての機能はもちろんなのですが、 最近では店頭での決済だけでなく病院の診察予約ができたり、ピザの宅配を頼めたり、タクシーを呼べたり、どんどん機能が充実してきて、社会インフラのようになっています。そういった意味で、より多くの人が使っているメジャーなSNSは強いですね。日常の中での利用率を見ても、日本より進んでいる印象です。
動画からECに誘導も。日常に溶け込む動画
大久保:確かに日本でもLINEタクシー(LINE上でタクシーを配車・決済処理できるサービス)などが出てきてはいますが、チャット以外の機能を活用している人は少ないですよね。ほかに中国人のSNSの使い方で特徴的な部分はありますか?
大上:動画が大好きで生活の一部に組み込まれているのも、日本と比較すると特徴的ですね。
要因として、Wi-Fiが無料で整備されていてカフェなどで気軽に動画を見られることや、法的な問題がある場合もありますけどバラエティに富んだ動画がアップされていることなどがあると思います。だからテレビより動画なんです。
最近では、いわゆるテレビショッピングのような感覚で見られる、スマートフォン版の生中継テレビ通販動画アプリなども出てきていて、そこからECサイトに誘導して買ってもらう、なんていう仕組みもあります。
見るのが大好きなのはもちろん、もともと自撮りの好きな中国人ですし、生中継の人気が高まっているので自分を10秒動画で撮ってSNSにアップするのも、違和感がなくなってきているのではないでしょうか。
理解しておきたい!中国で代表的な6つのSNSの特徴
大久保:中国ではそもそも使っているSNSが日本と全く違うという点も、日本人が戸惑うポイントかと思います。中国の代表的なSNSについて、それぞれ簡単に特徴などを教えていただけますか?
大上:わかりました。ではWeChat、QQ、QQ空間、Weibo、豆瓣(douban)、人人網(RenRen)について紹介していきます。
現在中国でもっとも影響力のあるチャット型SNS。先ほどお話した「インフラ化」を主導しているのもWeChatです。ユーザー層も幅広く、若者からお年寄りまで8.06億人(海外ユーザー含む)に使われています。
もともとPCをベースにしていたサービスで、チャットをはじめとしたコミュニケーションツールとして使われることが多いSNSです。運営会社はWeChat と同じTencent社。WeChatと比較して若者のユーザーが多いのが特徴で、中高生はQQ、大学生以降にはWeChatというブランディングが行われています。ユーザー数は約8億人です。
QQ空間
同じくTencent社が運営するSNSです。自分の写真やブログをアップできるようになっています。WeChatやQQとの連携に優れており、両者の人気が高まったことで、一時期廃れていたQQ空間の人気も復活しました。若年層のユーザーが多く、約6億人が使っています。
Weiboは総合SNSのなかでもっとも代表的なサービスです。Twitterによく似ていて、ニュースを見たり興味のある情報を集めたりするのによく使われます。不特定多数に情報を発信できるのが特徴で、2016年以降人気が復活してきています。ユーザー数は約6億人。
douban
QQ空間と同じようなサービス内容ですが、書籍・ドラマ・映画などコンテンツ系の情報に強いSNSです。ジャンル特化のSNSに近いイメージでしょうか。現在のユーザー数は約1億人と推定されています。
人人網
開設当初は中国版Facebookとも呼ばれていた人人網。ユーザー数自体は5,000万人と他のものと比べて少ないのですが、学生を中心に根強い人気を維持しています。就職活動の情報共有などによく使われているようです。
大久保:ありがとうございます。ざっくりイメージが掴めました。
なぜ口コミは中国人の購買決定に強力な影響をもたらすのか?
メディアの情報を信頼できない中国人
大久保:「訪日中国人向けマーケティングは口コミが重要」という話をよく聞くのですが、実際のところはどうなんでしょうか?
大上:実際口コミはものすごく重要ですね。
日本商品が爆買いされるようになったきっかけのひとつは、2007年頃にあった中国国内企業による食品汚染問題。自国製品への不信感が深まり、「買い物をするなら口コミを参考にしよう」という風潮がより高まった。そうした状況のなかで日本製品の質の高さがソーシャルメディアで拡散され爆買いに繋がった、と弊社では考えているんです。口コミ評価の良い製品は質が良い、というイメージが形成されていき、結果として口コミの消費行動に与える影響が大きくなりました。
あとこれは現地に留学経験のあるスタッフの意見ですが、民主主義ではないこともマスメディアに対する信用度の低さに影響しているようです。
ここでひとつ調査データをご紹介します。見ていただくと分かる通り、もっとも信頼する情報源はネット、リアルに関わらず口コミであり、テレビや雑誌への信頼度が低いんです。世代によって違いはありますが、口コミへの信頼度が高いのは変わりません。
こういったデータからも、中国人にとっての口コミの重要性がお分かりいただけるかと思います。
メンツ文化がSNSでの共有を後押し
大上:口コミが影響力を持つ背景としてもうひとつ、「圏子(チェンツ)」という考え方で、中国特有の強い結びつきをもつ人間関係というものがあります。仲良しグループみたいなものなのですが、高校の同級生や大学の寮のつながりなど、なにか同等の学歴や経済力を基準として何人かで構成される知人友人のグループがあるんですね。この内部では相互扶助と競争関係が共存していて、誰か一人が良い車を買うとほかのメンバーにも安く買えるところを紹介したりして、皆でメリットを共有しようとするんです。
日本旅行に行ったときにも、まずそのメンバーに報告しなければいけなません。ただ自慢したいからSNSを活用するのではなく、まずメンバーに共有して、その人たちが他の人にシェアした時にメンツがつぶれないようにフォトジェニックな投稿にこだわるわけです。日本と中国でSNSに対するスタンスの違いが大きく出ているところだと感じます。
大久保:なるほど。中国の政治的・社会的背景などもあり、口コミの貴重性が高まっているんですね。
口コミはいつ利用される?訪日旅行のカスタマージャーニー
大久保:口コミは具体的に訪日旅行のどういった場面で利用されているのでしょうか?
大上:以下の訪日中国人のカスタマージャーニーの図をご覧ください。
まず旅行前の計画段階。旅行中にもSNSで情報収集したり、自分たちで発信したりもします。そして帰国後にもSNSで体験や戦利品を共有する。こうしてSNSに口コミ情報が蓄積されていくわけで、また旅行に行くときにはそういった情報をSNSで検索するんです。中国人旅行客のなかではこういったサイクルが成立しています。
- 旅前:「お買いものリスト」を作成
情報源)SNS上の書き込み、「日本で買うべきおすすめ商品」といったインターネット上の情報、ソーシャルバイヤーによる情報拡散やECサイトなど - 旅中:購入した商品についてSNSに書き込むと同時に、SNSなどから情報収集
- 旅後:旅の体験や戦利品をSNSに書き込む
訪日中国人向けマーケティング今後の展望
「爆買い」は本当に無くなったのか?
大久保:最後に今後の中国人向けインバウンドマーケティングの動向についてお伺いできればと思います。まず、日本国内では中国人の爆買いが減ってきている、ブームが終わった、という論調が出てきていますが、実際どのように考えていますか?
大上:確かに表面的な爆買いは減ったかもしれませんが、調査結果を見ても消費意欲は衰えていません。
もともと爆買いのイメージを牽引していたのはソーシャルバイヤーと呼ばれる人たち。日本で大量に人気商品を購入し、自分のソーシャルアカウントで情報発信して売っていた人たちです。ソーシャルバイヤー自体は関税などの影響で段々減っていて、結果として爆買いが減ったというイメージに結びついているかと思います。
ただ、消費の対象がモノからコトに移っているというのは事実です。また、買い物のニーズも多様化しており、中国人が買いたいものもどんどん変化しているので、次に来る傾向を読むのが難しいという状況もあります。
今後はSNSで情報発信していく内容の幅を広げていくことがより重要になってきます。コト(体験)を例にとっていえば、「日本のこんな場所でこんな体験ができる」というような情報に実際にたどり着けているのか、ということです。実際、今はまだまだそこが弱い。変化しているニーズと情報をうまく結びつけてあげるような情報発信が求められています。
日本カルチャーの体験があらたなトレンドに
大久保:コト消費が活発化していくとのことですが、具体的にどういったものに人気が集まってきているのでしょうか?
大上:以前「国慶節に日本でしたいことランキング」という調査をしましたが、やはり1位は買い物なんですね。ただ、それ以外はやはり日本文化に触れたい、和食を食べたいとか、着物を着てみたいとかですね。あとはフォトジェニックな所、紅葉や雪はもちろん、自然や伝統家屋など、日本の原風景に興味を持つ傾向も強まっていますね。
大久保:最近は日本でも「Instagramに投稿したいからこのお店に行く」といった行動がよく見られますが、中国でも似たような傾向があるんですね。
これからの中国向けソーシャルメディアマーケティング
大久保:中国向けマーケティングにおけるSNSの重要性や影響力というのはよくわかりました。今後中国のSNS環境はどのように変化していくと思われますか?
大上:WeChat、QQを運営するTencent社の強さは変わらずあると思いますが、不特定多数に発信できるWeiboの影響力も高まっており、SNSの拡散力はさらに強力なもの、影響力の強いものになっていくと思います。
中国はIT、特にソーシャルの分野では日本よりも進んでいて、面白い機能がでてきたらすぐにほかのSNSにも実装されていきます。ですので、SNSのインフラ化の流れもさらに進み、ソーシャル無しでは生活がまわらないようになっていくでしょうね。
生活におけるSNSの影響が大きくなっていくなかで課題になるのが、それをいかにマーケティングにつなげていくかというところです。私たちの課題でもありますし、市場全体の課題でもあります。2020年に向けて訪日中国人客数は増えていくと思いますので、こういったクチコミであるソーシャル・ビッグデータをビジネスに落とし込んで、より気持ちよく消費してもらえる、企業の売上も上がるようなマーケティング活動を支援していきたいですね。
この記事を書いた人:ソーシャルメディアラボ編集部