ライオンのソーシャルメディア戦略のカギは「モノ軸」ではなく「コト軸」にあった!Facebookページでは潜在層の啓発を!

2012/07/05

商品を購入してくれる方を増やしたい。


そのためにソーシャルメディア、特にFacebookは使えないだろうか?


多くの方がそう思っているのでは無いでしょうか。


ライオンさんでは、中長期的に顧客を育成し、ニーズ顕在層を増やす取り組みをされています。



先日のヤマハさんのFacebook戦略の記事に続き、インタビューという形で今回はライオンさんのお話を伺って来ました。


▼ライオンさんのFacebookページ「バスタイム キレイ プロジェクト」
http://www.facebook.com/BathKireiPj


中長期的にファンを育てる戦略以外にも、メーカーさんならではの課題やソーシャルメディアで解決できている事もお伺いしています。(個人的には、『ユーザーは他のユーザーの事を知りたがっている。だからこそ、ユーザーから集めた声をウォール投稿にも活かす』というお話が、他の会社さんでも参考になるのではないかなと思いました。)


他にも皆さんの参考になるお話が一杯ですので、ぜひ最後までお付き合い下さい!


■目次


1.ライオンの課題と、ソーシャルメディアの活用方法


2.コト軸によるアカウント設定の目的


3.中長期的にファンを育てるための施策


4.プロのコンテンツを作るための社内体制


5.運用評価の指標


6.ファンベースを作る最初の施策


7.プラットフォームによるファンの反応の違い


8.二つのキャンペーンの具体的な手法とその効果


9.2012年後半の戦略


お話を伺った方


ライオン株式会社 宣伝部 中村大亮さん


1.ライオンの課題と、ソーシャルメディアの活用方法




GaiaXソーシャルメディア ラボ(以下、ガイアックス)井出 :


まずはじめに、ライオンさんの現在のソーシャルメディア活用の取り組みについて教えて下さい。




ライオン株式会社 中村さん :


ライオンでは、2012年1月から「BATHTOLOGY(バストロジー)」というボディウォッシュと入浴液の商品に対して、Facebook、mixi、Twitterの3つのソーシャルメディアプラットフォームを使ったプロモーションを行っています。



F1F2層へのタッチポイントづくりが狙い


ターゲットは、女性で特に20代(後半)~30代でスキンケア意識の高い方々です。いわゆるF1F2層は、パソコンやスマートフォンなどマルチデバイスを使いこないし、ソーシャルメディア上でも活発な情報交換を行っています。


一方、ライオンでは基本的には小売店を通しての販売が多く、直接ユーザーとの接点を持てていないという課題がありました。さらに「BATHTOLOGY」はブランド戦略上、OOH(Out Of Home Media:屋外広告)や雑誌などを中心に広告宣伝を行なっていました。


こうした現状から、F1F2層のポテンシャルがあるソーシャルメディアを使えば効率的にタッチポイントを作れるのではないかと思い、各公式アカウントを立ち上げました。


立ち上げの企画段階で、Facebookだけでなくmixiにもターゲットユーザーがいることからmixiも展開する事にしました。さらに、この際だからTwitterも!というような形で、マルチソーシャルメディアで立ち上げる事にしたのです。


2.コト軸によるアカウント設定の目的




ガイアックス 井出 :


Facebook、mixi、Twitterとも、商品名ではなく「バスタイム キレイ プロジェクト」としたのはなぜですか?




ライオン株式会社 中村さん :


ソーシャルメディアを立ち上げるにあたって目指した事が二つありました。


1つは、すでにファンになっている人の可視化、そしてもう一つが「BATHTOLOGY」を知らない人たちにも情報を伝えるという事です。現在の無関心層・潜在層の人たちに、「キレイになるためにお風呂を楽しむ事」や「BATHTOLOGY」に興味を持って貰えるようにしたかったのです。



「コト軸」にして潜在層を啓発しファン化を。


この二つの目的を考えた時、アカウント名を「BATHTOLOGY」にすると、既に知っている人や使っている人は関心を持ってくれるかもしれませんが、母数が少なくなってしまいます。まだ知らない人に興味を持って貰うという目的を達成するためには、「BATHTOLOGY」アカウントは適していません。


そこで、商品名という「モノ軸」ではなく、女性がバスタイムでキレイになるためのプロジェクトという「コト軸」を使って、商品に関心のない人たちも入りやすくしました。


そして、コミュニケーションしていく中で、少しずつ「BATHTOLOGY」を好きになっていって貰おうと考えました。長期間をかけて、ファンを作り育てていくという戦略です。




ガイアックス 井出 :


「バスタイム キレイ プロジェクト」というタイトルは、みんなでお風呂を楽しもうという空気感がでているのでいいですよね。




ライオン株式会社 中村さん :


そうですね、ユーザーにもきれいになるためのアイデアを出して貰いながら、ライオンは、トイレタリーメーカーの立場からの「プロの知見」を出していく。その中で「BATHTOLOGY」だとこういうところが良い、という事も時々織り混ぜています。


こういう雰囲気のほうがユーザーも着いて来やすいかなと思っています。


3.中長期的にファンを育てるための施策



ウォール投稿では、美容一般論の話と宣伝のバランスを考える。




ガイアックス 井出 :


投稿で気を付けていることはありますか?




ライオン株式会社 中村さん :


やはり、商品よりの情報ばかりにならないように投稿の頻度には気を使っています。


一方で、美容の一般論ばかりになり「BATHTOLOGY」に全く触れないと、何のために運用しているのか分からなくなるので、バランスの見極めをしながら運用しています。


コミュニケーションをきちんと取っていれば商品の話題でも「いいね!」が付くように。


運用開始当初は、投稿3つのうち1つくらいの割合で商品の話題を流していたのですが、商品の話になると「いいね!」が付きにくくなるという事がありました。


でも、最近は商品の話題でも「いいね!」が少なくなるという事はなくなって来ていて、逆に商品の話題のほうが「いいね!」が付く事もあるくらいです。


当初の目的の中長期間にわたってファンを育てるという計画が上手くいき始めているのかもしれません。


ユーザーにとって価値のある「ライオン」だから提供できる投稿を。




ガイアックス 井出 :


母体がライオンさんだと気付かないで、純粋にファンになっている人も多いでしょうね。




ライオン株式会社 中村さん :


最初は気付かない人がほどんどだと思います。しばらく投稿を見ている内にだんだんと気付いていく感じだと思うんです。


ユーザーにとって、価値のある情報を提供できるよう、ライオンだからこそ提供できる質の高い入浴に関するノウハウを届けるように心がけています。


4.プロのコンテンツを作るための社内体制




ガイアックス 井出 :


ウォール投稿のコンテンツはどういう形で作成されているのでしょうか?




ライオン株式会社 中村さん :


ウォール投稿はA、B、C、Dの4つのカテゴリにわけて作成しています。


ウォール投稿のABCD


Aは、挨拶や日常的な軽い話題です。5月ごろは、本社が近いこともあって、スカイツリーの写真や話題をよく投稿していました。


Bは、頻度は少ないのですが、おすすめ入浴方法や、ユーザーからの投稿アイデアを実際に試してレポートするといったコンテンツを、女性の運用担当者2名自らが女性生活者目線で作成しているものです。


Cは、ライオンが持っている入浴のノウハウや知識をまとめたもので、Dは商品に関連する情報です。


マイスターがコンテンツ制作の鍵


コンテンツは、月に1回編集会議を行ってそこで1ヶ月のコンテンツを大体決定します。この編集会議には、「マイスター」も参加しています。


ライオンには、「掃除」「洗濯」「オーラルケア」「ヘルスケア」の4つ分野ごとに一人づつ「マイスター」がいます。マイスターはその分野のエキスパートで、研究所出身者です。取材などがあれば、適した分野の担当者が対応するようになっており、広報も兼ねています。


ライオンさんの「LION快適生活研究所」


「バスタイム キレイ プロジェクト」の場合、ヘルスケアマイスターが研究所の情報、商品のスペック情報、コト軸の情報まですべて押さえているので、彼女をキーマンにして編集会議を開きます。ネタを聞き出したり、こちらが考えたネタについてプロの立場からアドバイスを貰ったりしながら、編集会議でネタを15個くらい整理します。


編集会議で整理したネタを投稿できる形でリライトして、リストにまとめ、担当者で共有します。そしてそのまとめたリストの中から、担当者が選んで投稿していきます。ただ、Aについては、その日の天候やイベントなどにあわせて作成する事が多いです。




ガイアックス 井出 :


なるほど、15個くらいあらかじめネタを用意できていれば、安定して運用できますね。投稿のタイミングや頻度は決めていますか?




ライオン株式会社 中村さん :


「1日に2回投稿」を基本方針にしています。投稿のタイミングは、最初は決めていたのですが、最近は担当者に任せています。運用しながら「入浴ネタは夕方だと反応が良い」というような事も分かって来ました。帰宅中のOLさんが電車の中で見てくれているようです。


5.運用評価の指標




ガイアックス 井出 :


運用に関して評価指標のKPIなどは設定していますか?また、宣伝部の活動としてどのように効果を社内で説明していますか?




ライオン株式会社 中村さん :


現状は、投稿ごとのエンゲージメント率(投稿への反応数÷ファンの数)を見て評価しています。現在の規模では、エンゲージメント率は上昇傾向にあります。しかし、ファン数が増えていくとある段階で率は下がることになると分かっているので、エンゲージメント率だけを見るのは限界を感じています。


他社さんでは、エンゲージメント率ではなく、1投稿あたりの反応数を評価しているそうなので、そちらの数値もみようかと思っています。


一定のファン数規模は必要


ファンの数については、一定の規模は必要だと考えています。


目標は半年で、mixiとFacebookそれぞれで3,000です。今、運用5ヶ月目ですが、mixiはすでに5,600人なので目標を超えていますが、Facebookは2,000人弱なので、もう少し頑張らないといけないです。Twitterについては目標は設定していません。


社内への説明は合計のファン数やエンゲージメント率


社内の説明では、3つのプラットフォームのファン数を合計した数値を報告しています。セグメントブランドで、8,000人のユーザーをファンベースとして育てている事は大きいと思っています。また月々の効果としてはエンゲージメント率を紹介しています。


6.ファンベースを作る最初の施策




ガイアックス 井出 :


最初はどうやってファンを集めたのですか?




ライオン株式会社 中村さん :


Facebookについては、最初の1ヶ月だけFacebook広告を出稿しました。mixiも3週間ほど、m AD(エムアド:mixi内の広告)を出しました。それ以降は広告は出稿していません。


最初、mixiはユーザーが集まらなかったのですが、途中でmixiの紹介ページに取り上げて貰い、そこからユーザーが伸びました。


広告はクチコミで広がりを作るための初速づくり


広告を使ったのは、ソーシャルメディアは人から情報が伝わっていくので、最初にある程度の母数は集めないと広がらないと考えたからです。広告を出稿するとハイペースでユーザーが増えます。その分離れていく人もいるでしょうが、残ってくれた人を盛り上げていけば、そこからネットワークを通して広がっていくと思います。


7.プラットフォームによるファンの反応の違い




ガイアックス 井出 :


ソーシャルメディアによるユーザーの反応の違いなどはありますか?




ライオン株式会社 中村さん :


Facebookは投稿に「いいね!」はつきますが、コメントはつきにくい傾向があります。一方でmixiはコメントが多く付く傾向があります。mixiだと素直な反応が多いですね。おそらく実名か、ハンドルネームかということが影響していると感じます。


ユーザーとのコミュニケーションを通して分かる定性的な気付き


先日「体を洗う時、タオルでゴシゴシ洗うより、泡で手洗いしたほうが肌に優しい」というネタを投稿しました。Facebook、mixi、Twitterで、投稿する内容は基本的に同じものにしています。


私たちにとっては、この情報は「美容の常識」であり、あまり反応も期待していなかったのですが、mixiのユーザーから「知らなかった!」「すごい」という反応がたくさんありました。


この反応を見て、自分たちがお客様の事を理解しきれていないと痛感しました。


ソーシャルリスニングというと少し大げさですが、コミュニケーションを通して、ユーザーは思っていたほど美容知識に詳しくないという事実に気づき、もっと初歩的な情報も提供する責任があると感じました。


この例のような「定性的な気付き」は、ソーシャルメディアを通してたくさん得られています。


ソーシャルメディアは、商品の広告媒体として考えるより、コミュニケーションプラットフォームとして考えるべきなのだと実感しています。宣伝部としてはKPIも考えないといけないのですが、コミュニケーションプラットフォームとして気付きを得て、それを他の媒体と連携させるというような事を意識するようになりました。


8.二つのキャンペーンの具体的な手法とその効果




ガイアックス 井出 :


他媒体との連携ではどんなことをやっていますか?




ライオン株式会社 中村さん :


雑誌のAneCanが主催するイベントの招待枠を用意して貰って、「Facebookページのファン限定、10名様イベントご招待」というキャンペーンをやりました。


「AneCan」主催のイベントにファンだけご招待


このキャンペーンは、新しいファンの獲得ではなく、既にファンになって頂いているユーザーに対する感謝の気持ちを伝え、もっと好きになってもらう事が目的の企画です。


キャペーンの参加条件は、Facebookページ内のキャンペーン申し込みアプリ上で投稿をするだけ。投稿の件数は300件くらいありました。これだけの応募件数があったのは大変嬉しいです。


入浴スタイルキャンペーンには1,500人以上が参加




ガイアックス 井出 :


以前、開催されていた「入浴スタイルのキャンペーン」の内容とその効果についても教えて下さい。




ライオン株式会社 中村さん :


「入浴スタイルのキャンペーン」への参加方法は二つ用意しました。1つは自分の入浴のアイデアを投稿して参加する方法、もう1つは投稿されたアイデアに対して「Like!」をする事で参加する方法です。


ユーザーは投稿先をFacebook、mixi、Twitterの3つから選択でき、選択したプラットフォームに自分の投稿が表示されます。またユーザーの投稿結果は「バスタイムキレイプロジェクト」のキャンペーンページにも集約されて表示されるようになっています。


参加条件を二つ用意したのは、投稿だけだと、参加者が増えないと考えたからです。お風呂でやっている事というのは言いづらいだろうと思ったので、投稿は100件くらいと予想しました。しかし、結果は私たちが想定したものと正反対でした。


キャンペーン期間の2ヶ月で約1500人が参加してくれたのですが、「Like!」は600、投稿は900個も集まったのです。


「ユーザーは自分のアイデアを伝えたいという思いがある」というのは大きな発見でした。


投稿内容を見る事で新たな気付きも。


さらに、投稿の内容も驚きの連続でした。例えば、非常に多くの人がスマートフォンをお風呂に持ち込んで楽しんでいるんですね。


こういう情報は、インタビュー調査などでは聞き出せない生活者のリアルな行動で、キャンペーンの投稿を通して垣間見ることが出来ました。


キャンペーン開催は一石三鳥


キャンペーンを行うことで、ユーザーの投稿が友達を介して広まるので、結果としてファンも増えます。そのため、Facebook広告を出稿していくよりも、キャンペーンを定期的に開催していくほうがファン数も増え、親近感エンゲージメントも高まり、ユーザーの声も聞けるので、一石三鳥かなと思っています。


Twitterでは感謝の気持ちが送られてくる。


キャンペーンでは投稿先として、3つ選べるようになっているのですが、多くのユーザーがTwitterを投稿先として選びます。さらにキャンペーンが終わって当選者が確定した後に、ユーザーが感謝の気持ちを公式アカウントに@で送ってくれるのです。


「ありがとうございます!」「届きました」という声やキャンペーン賞品の写真などを送ってくれる方もいて、こちらも「わざわざありがとうございます!」というように返しています。こうした1対1の気軽なコミュニケーションは、FacebookやmixiよりもTwitterのほうが向いていると思います。


ユーザーのアイディアはウォール投稿にも活かされる。




ガイアックス 井出 :


キャンペーンの投稿でユーザーのアイデアも得られるので、それを日常の投稿にも活かせそうですね。




ライオン株式会社 中村さん :


まさにその通りです。エコシステムのように、ユーザーから貰ったアイディアをFacebookページのウォールで紹介したり、雑誌で紹介したり、さらに雑誌掲載のことをウォールで紹介したり、色々な方向で活かせています。


https://www.facebook.com/BathKireiPj/posts/377260055617826


現実問題として、365日分の投稿をすべて自前で用意するのは大変なので、ユーザーの投稿によって運用が助けられている部分もあります。エバンジェリストの声の可視化もしたいですね。


それに、ユーザーは他のユーザーの事を知りたがっています。以前ファンの方々にアンケートを取って、「他の人たちがお風呂で何をしているか、どういう工夫をしているか知りたい」と思っている人が多い事が分かりました。


プロからの目線で出す情報、そしてユーザー同士のアイデアの交換は、どちらも別の視点でユーザーにとっても価値のある、役立つ情報なんです。


9.2012年後半の戦略




ガイアックス 井出 :


今後の展開はどういう風に考えていますか?




ライオン株式会社 中村さん :


現状を振り返ってみて、既存ファン向けに開催したAneCanと連動したイベント参加型のキャンペーンはヒットした感触があります。


なので、今ファンになってくれている人たちが「ファンになってよかった」と思うようなキャンペーンで、さらに他のメディアと連携するような企画を今後も続けていきたいと考えています。


「BATHTOLOGY」は、商材の特性から9月~12月が販売が盛り上がるので、その頃に向けて、「入浴スタイルキャンペーン」のようなものをまた開催したいと思っています。O2Oや他のメディアと連携したソーシャル感のある企画を考えています。


会社としては、1年間は思いつくことは何でもチャレンジするという方針で、今年の1月から始めていますので、後半もいろいろトライしていきます。


私も含めて部所横断プロジェクトチームメンバー全員、最初は疑心暗鬼でしたが、メンバーで投稿したりユーザーの声を見たりしている中で、出来るだけ続けていくべきというように考え方も変わって来ています。


ソーシャルメディアを数値的に捉えるのは難しいのですが、Facebook・twitter・mixiの各アカウントが一つの支店のようになって、お客様と直接対話し、マーケティング調査では分からない本音をすくい上げていけたらよいと思います。





以上、『ライオンのソーシャルメディア戦略のカギは「モノ軸」ではなく「コト軸」にあった!Facebookページでは潜在層の啓発を!』でした。


(執筆/編集 井出一誠 :FacebookTwitter


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この記事を書いた人:ソーシャルメディアラボ編集部

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