広告費ゼロで1年に10万フォロワーを獲得! ハッシュタグ研究を重視したシンプルホームのInstagram戦略とは
2018/03/02
Instagramフォロワー数12万人以上(2018年2月現在)を、なんと広告費ゼロかつ約1年間で実現した急成長中の住まいメディア「シンプルホーム」。
『シンプルで洗練されたお家や暮らしに役立つアイディアを毎日ご紹介』をコンセプトにしたこの分散型メディアはフォロワー数だけでなく、メディア名を使用したハッシュタグ「#シンプルホーム」がすでに657,000件以上投稿されるなど、インテリア・住まい系メディア・SNSの中でも飛び抜けた存在です。
運営会社であるライスカレー製作所のメディアコミュニティ事業部部長、シンプルホーム編集長でもある川上 慶士さんにその成功の背景と事例についてお話をうかがいます。
Interview / ソーシャルメディアラボ副編集長 小東真人
Text / ソーシャルメディアラボ編集部 大木一真
- ■目次
- プロフィール
- シンプルホーム立ち上げの背景
- フォロワーに好まれる情報発信とは
- アカウントフェーズに応じた「ハッシュタグ選定」
- シンプルホームの今後の戦略
1.プロフィール
川上 慶士 氏:株式会社ライスカレー製作所メディアコミュニティ事業部部長 シンプルホーム編集長
2015年関西大学商学部卒。同年戦略系PR会社に入社。戦略PRコンサルタント兼広告プランナーとして、食品、金融、カメラ、アパレル、外資ITサービスなどのPRコンサルティングおよびWebプロモーション業務に従事。2016年4月より株式会社ライスカレー製作所を共同創業。訪日外国人観光客向けWebマガジン「MATCHA」元関西統括。
2.シンプルホーム立ち上げの背景
世間とInstagram、トレンドのギャップに注目
小東:まずシンプルホームが立ち上がった背景や思いをお伺いしたいです。
川上氏(以下、敬称略):メディア立ち上げの背景ですが、そもそも運営会社であるライスカレー製作所が企業のInstagram関連のマーケティングをお手伝いしており、Instagramに普段からずっと触れていました。
その中で住まい領域の様々なアカウントや投稿をハッシュタグ経由で見ていたら、Instagramの中でトレンドになっているものと、世間一般で認知されているトレンドにちょっと乖離している部分があるなと感じたんです。
というのも、世間では住まい領域のトレンドはかなり二極化しているんですね。
DIYとか男前インテリアといわれるような、家具やモノにこだわる人たち。一方、ミニマリストという言葉に代表される、極力部屋の中はシンプルにして、モノは持たないようにしようという人たちです。
世間的にはこの二極化した住まいの文化があるのですが、Instagramの中だと実はもう1つトレンドがあることに気付いたんです。
それは「モノにはこだわるけど、必要以上にはモノは持たない、部屋のお掃除、整理整頓が行き届いて、部屋自体がすっきりしているのがいいよね」というトレンドです。
これはDIY的なトレンドやミニマリスト的なトレンド、このどちらにも当てはまらなくて、強いていうとこの2つの中間みたいなところですね。
なんでかなと考えていたら、小さい頃からお掃除や整理整頓をすることは当たり前のこととして教えられていたので、お掃除や整理整頓をすることにそれ以上の価値があるとは世間一般では思われていない。
しかし、主婦や女性の方々がごく普段からお掃除とか整理整頓したあと、その写真を撮ってInstagramに投稿する文化、ある意味毎日のお掃除の結果発表のような、そういう努力の公表の場としてみんなとつながって「毎日お掃除してえらいね」や「ここの汚れってどういう風に落とすの」など、気軽に意見交換をするコミュニティがInstagramの中にあることに気付いたんです。
小東:御社のファンマーケティング事業で得た知見が生きそうですね。
川上:そうですね。シンプルホームを立ち上げたのは2016年の12月なのですが、その当時モノにこだわりつつも整理整頓されたシンプルなお部屋を紹介するメディアやアカウントはまだなかったんです。住まい系のメディアやSNSもあるにはありましたが、どちらかというと部屋やインテリアに非常にこだわるというテーマが多かった。
「モノにはこだわるけど必要以上に持たない」「日々の自分の努力を認めてほしい」「自分の整理整頓術を紹介したい」という趣旨の投稿を紹介する場所を作ったらいいんじゃないか、というので始まったのがこのシンプルホームですね。
3.フォロワーに好まれる情報発信とは
「インスタ映え」よりもユーザーに役立つリアルな情報を
小東:フォロワー数をたった1年で、しかも広告宣伝費を使わず、10万以上のアカウントまで急成長させたことには驚きました。その急成長の背景には何があるのか、どのような工夫があるのか、お伺いさせてください。
川上:この結果はユーザーから求められているコンテンツをしっかり発信できていたということだと思っています。
シンプルホームの運用として、下記3種類のコンテンツを投稿しています。
- 「#シンプルホーム」のハッシュタグを使ったユーザーの投稿をリポスト
- 弊社で企画、撮影、そして編集して投稿する動画投稿
- 通常の投稿だと紹介できないような、アイテムや商品のストーリー投稿
他にも最近Instagramが実装された、2択のクイズのストーリーがありまして、そこで商品を紹介したり、あとは実際にシンプルホーム運営の日常や中身みたいなものを投稿しています。
通常の画像投稿、動画投稿、そしてストーリー。この3つのコンテンツをバランスよく投稿していますね。
小東:ユーザーさんから支持される、反応がよい投稿は具体的にどういったものなのでしょうか。
川上:画像のリポストの投稿であれば、ナチュラルカラーで、ちょっと柔らかみがある写真の投稿。また部屋の全体像がわかる投稿は比較的反応がよいですね。
ユーザーさんが気になっていることは「わたしの部屋はこうだけど、本当に正しいのだろうか」「他の人はどうしてるんだろう」といったことだと感じます。
ですので、他の人がどのように家づくりをしているのかを1番把握しやすい部屋の全体像が写っている写真投稿は支持されますね。
小東:いわゆる「インスタ映え」だけじゃなく、最近では面白い画像であったり、ためになったり、すこしくだけた投稿の比率がInstagramでどんどん増えていると思います。シンプルホームではいかがでしょうか?
川上:その通りですね。きれいな写真の投稿だけでは他のアカウントと差別化ができないということ、フォロワーに「こんなきれいな写真撮れないよ」と思われてしまい自分ごと化されなくなり、あまり支持を得られなくなっています。
今のInstagramでフォロワーがつきやすいアカウントの特徴って、キャプションをしっかり書いている方がフォロワー数を伸ばしているんですよね。
InstagramはビジュアルベースのSNSですが、ただキレイな画像だけを投稿しているアカウントは差別化を図れなくなってきています。
なのでビジュアルベースだけれども、キャプションをしっかり書き込んだり、コメントにもしっかり返信してユーザーのためになるコンテンツを発信する。そうするとこの人は継続的にフォローする価値があると見なされて、フォローしてもらえるんですね。
「#シンプルホーム」っていうハッシュタグをつけていただいた画像をリポストする形式の通常投稿は、毎回全部違うカスタマイズの文章をそのユーザーの画像にあったものに全部書いているんですね。
こうした地道なコミュニケーションがフォローの定着率に直結してきます。
4.アカウントフェーズに応じた「ハッシュタグ選定」
ある時、急に閾値を超えた
小東:フォロワー数はどういう風に増えていったのでしょうか。
川上:最初の3ヶ月は、数百人ずつしか伸びていかなかったんです。ターニングポイントは開設して5、6ヵ月ぐらいたった頃でしょうか。急に1ヶ月間で3000人も増えて、すごい伸びたなと思っていたら、翌月9000人ぐらい。そこから半年間連続、1万人単位で増えました。
特別何をしたわけでもなく、いつもどおり投稿して、いつもどおりコメントでコミュニケーションをとっていただけだったのですが、閾値を超えたタイミングでガッと増えたって感じですね。
小東:日々の投稿のキーポイントはどういった部分なのでしょうか。
川上:投稿のポイントはハッシュタグの選定ですね。
運用経験がない人だと、とりあえず人気のハッシュタグや投稿件数が多いものを使いがちですが、それはあまり効果がないんです。
1投稿あたりに獲得できるいいね数やコメント、保存された数、何時間以内にいいねがいくつついたか。これらの変数が掛け合わさった数値が人気投稿への出やすさに影響しています。弊社でも1時間ずつに全てのハッシュタグを確認し、それを1、2週間続けていました。
▲シンプルホームでは上記のように人気投稿をウォッチしている
ハッシュタグ1つにつき、投稿件数が1万件のもの、5万件のもの、10万件のもの、20万件のもので見ていくと、投稿件数が少ないものだったら単位時間あたりでいいねがこれぐらい獲得できているけど、10万件のは全然出ないなとか、逆に6時間ぐらいたつと、10万件のハッシュタグ付きの投稿でもいいね数が増えたから人気投稿に出ているんだとか、興味深い結果が得られました。
小東:ハッシュタグのつけられた件数と、いいねの相関を検証されたんですね。
▲2017年3月と4月の一ヶ月でもハッシュタグの取捨選択が行われている
川上:はい。こうした結果から、今のアカウントのいいねが獲得できる数、つまりアカウントのフェーズによって、人気投稿に出られるハッシュタグがだいたい投稿件数どれぐらいか、分かってくるんです。
Instagramでつけられるハッシュタグは30個までなので、それに合わせて人気投稿に出やすいものをすべてつけました。そこで露出を獲得して、フォロワーを増やし、また次のフェーズに移るんです。
小東:フォロワーが多くいて、エンゲージが高いことを見積もられているからですよね。
川上:そうなんです。そうしてハッシュタグを段階的に入れ替えて調節をすることで、効率的にいいねを獲得し、人気投稿に出て、そこでまたいいねを獲得し、フォロワーを獲得する。それをもう一度繰り返して段階的にハッシュタグを調節していく。
シンプルホームではこれを継続的にやっていたので、これが肝になったのかなと思います。
ハッシュタグフォロー導入後の人気投稿をどう見るか
小東:Instagramでハッシュタグフォロー機能が去年の12月のはじめにリリースされました。そこから何か変わったことはこの1ヶ月でありましたか。
川上:いま感じているところはあまりないですかね。どの程度フォローされているのかはInstagramの仕様上ちょっとわからないのですが、影響はもしかするとあるのかもしれません。
小東:今までは人気投稿はみんな共通していて、シンプルホームの関連のハッシュタグは誰がみても同じでした。それが最近、個別最適化されている話もあり、そうすると人気投稿に載るロジックがすべて変わってしまいます。ロジックが変わったことで、より苦労されているのではないでしょうか。
川上:それはすごく影響あります。最近それが如実に出るようになりました。おそらく秋ぐらいにロジックが変わったと思うんですけど、シンプルホームが5月から、10、11月ぐらいまで、人気投稿にずーっと出ていたものが11、12月あたりから一切出なくなりました。
人気投稿を全ハッシュタグで見ていたのですが、出てくるハッシュタグと出ていないハッシュタグに結構ばらつきがあることに気が付きました。個人含め、いろんなアカウントで見ても個別の趣味嗜好でかなり最適化されていると思います。
ですが悪いこととは言い切れません。今後ハッシュタグをどうしていくか、判断が難しいなと思う反面、今までは絶対出れなかった投稿件数が多いハッシュタグに、少ないいいね数の投稿でも出れるようになっているんですね。
逆にこれはユーザーの趣味嗜好に合わせてアルゴリズムが個別最適化して、いいね数は高くないけども「これはあなたにとってすごい近しいコンテンツだよ」「興味があるコンテンツじゃないか」という具合にレコメンドしてくれるようになっています。
フォロワー数が多い一部のアカウントからすると「おいおい勘弁してくれよ」となるところですが、小規模・中規模のアカウントであれば、今まで絶対無理だったハッシュタグの人気投稿に出れる可能性があるので、チャンスなんじゃないでしょうか。よりユーザーにとって便利になった、本質的なところに立ち返ったと考えられますね。
5.シンプルホームの今後の戦略
川上:改めてですが、弊社はInstagramをファンマーケティングの位置付けで考えています。
継続的に訴求力の高い画像や動画、ビジュアルコンテンツで継続的にコミュニケーションを取る。それがいろんな人に最適化されて、コンテンツをみてもらえる。地道にコミュニケーションを取るというのは非常に大事かなと思っています。
よくあるのが、とりあえずバズればいいんだ、という考え方がありますが、シンプルホームは「どのぐらい流行るの?」「本当に話題化するの?」といった一発には固執していません。人が何かモノを買う決断をするときって、心理状態に閾値があると思っています。「あそこでもみた」「ここでもみた」「決め手がこれ」だから買う。
そういったアシストとしての役割はInstagramというビジュアルコミュニケーションは最適だと思っています。
小東:いろいろなノウハウが貯まってきたところで、今年1年はどうしていきたいかお伺いさせてください。
川上:今、だいたいフォロワーの9割以上が女性で、6割7割は主婦の方、都心だけじゃなく地方にもフォロワーは散らばっているのですが、そういった方々と接点を作れていることは非常に強いなと思っています。
そういう方々にとって、シンプルホームを実現するには、どういうことをすればいいのか、どういうものだったらシンプルホームっぽくなるのか。築き上げたコミュニティを財産にして、自社製品や、部屋づくりのための別サービスなど、どんどん新しい商品やサービスを出していこうというのが2018年の取り組みです。
小東:ありがとうございました!
この記事を書いた人:小東真人
17年ガイアックス入社のデジタルネイティブ世代。靴磨きが大好きで、休日はInstagramで関連アカウントばかり見ている。