2015年躍進するメディアは『特化型』か!?「iemo」「クックパッド」などから見るバーティカルメディア成功の鍵
2014/12/19
こんにちは、ソーシャルメディアラボの渕上です。
2014年もあと10日ほど。今年もソーシャルメディア界隈ではいろんな出来事がありましたね。もはやインターネットでニュースを読むのは当たり前になり、あらゆる情報の収集をインターネットに頼っている方も多いのではないかと思います。
さて、皆さんは今年、自分の欲しい情報を収集するためにどのような方法を選んだでしょうか?
- ■目次
メディアのトレンドは水平から垂直に!
1.情報収集は「検索」から「キュレーション」へ
2.これからのトレンドはバーティカルメディア!
3.成功しているバーティカルメディアを分析してみる
4.バーティカルメディアは忍耐のメディア
5.広告という収益モデルとの相性の良さ
6.成功するメディアとは?
情報収集は「検索」から「キュレーション」へ
2012年くらいまでは「Googleで検索してるよ」という方がほとんどだったかもしれません。
しかし2014年も末の今、同じ質問をして返ってくるのは、安定のYahoo!ニュースに続いて「グノシー」「SmartNews(スマートニュース)」「NewsPicks(ニューズピックス)」といったニュースキュレーションアプリではないでしょうか。
キュレーションという言葉がIT業界に流布し始めたのは2010~2011年頃と言われています。
それから3年ほど経った今、ゴールデンタイムのテレビCMでこれらのニュースキュレーションアプリを見かける程に一般層への認知度を高め、この言葉も随分と根付いた感がありますね。
優良なキュレーションメディアには『価値』がある
そんな中、業界を大きく揺るがした出来事が10月1日にありました。急成長を遂げているキュレーションメディア「iemo(イエモ)」と「MERY(メリー)」が、IT企業大手の株式会社ディー・エヌ・エーに50億円という破格の値で買収された件です。
参考記事:DeNAがiemoとMERYの2社を計50億円で買収、キュレーション事業に参入
これからのトレンドはバーティカルメディア!
玉石混交な情報を人の手によって(あるいはアルゴリズムを備えたロボットによって)キュレーションしたものがコンテンツである「キュレーションメディア」は、いわゆる一次情報が著しく少なくなりがち。
そんな中、注目を集めているのが領域特化型=バーティカルメディアです。
ではバーティカルメディアとはどういったものを指すのでしょうか?実際のメディアを例を出しながら解説していきましょう。
【グルメニュース】特化型:macaroni(マカロニ)
グルメのニュースキュレーションメディア『マカロニ』。
前述のiemoのようなサイトデザインで、とにかく写真が美しいのが特徴。「グルメ」であれば外食・家食を問わず幅広く取り扱っています。
メニューやレシピの紹介だけでなく、人気店・新店、イベントのレポートなど「グルメ」に関係したコンテンツが豊富で、利用者の9割近くが女性ユーザーであることが納得のクオリティですね。
【サッカー動画】特化型:socsoc(サクサク)
国内外で行われたサッカーの試合動画から、神業プレーやハプニング、感動ネタなどをキュレーションしたメディア。サイトの構成はとてもシンプルで、いわゆるバイラルメディアに近い位置付けになるかと思います。
サッカーが好きな30代上がユーザーの中心であり、シンプルでわかりやすい神業動画や心に刺さるキャプテンの言葉といった、ソーシャルメディアでシェアされやすいコンテンツがヒットし、今年9月1日のローンチから1ヶ月で100万PVを叩きだしたことがニュースにもなりましたね。
【ニッチなニュース】特化型:カメリオ
いわゆるニュースキュレーションアプリの系統ではありますが、こういったサービスでは基本的に「政治」「エンタメ」「経済」といった大カテゴリをフォローすることが多いのに対し、カメリオは「iPhone6」「エボラ出血熱」「スニーカー」といった小さなカテゴリでフォローすることができます。
閲覧履歴などからユーザーの嗜好も理解していく機能も付いていますが、カメリオは「自分好みのニッチなニュース」をバーティカルにキュレーションしてくれるメディアと言えるかもしれません。
【オタクコンテンツ】特化型:ハッカドール(Hacka Doll)
今までありそうでなかった、「アニメ」「ボーカロイド」「声優」といったオタクコンテンツに特化したキュレーションアプリ。興味のあるテーマを登録することで、ユーザーの好みにあった記事をキュレーションし配信してくれるサービスです。嗜好を分析する機能もあり、使えば使うほどユーザーを理解していくようになります。
おもしろいのは、アプリ内で秘書的な役目をする女の子のキャラクターとコミュニケーションが取れるところ。積極的にコミュニケーションを図ることで記事選出がより良くなっていくのは、オタク心理を見事に突いたシステムですね。
成功しているバーティカルメディアを分析してみる
いかがでしょう?何となくバーティカルメディアがどんなものか掴んでいただけたのではないでしょうか。
しかし当然ながらバーティカルメディアのすべてが成功しているわけではありません。次に、オリジナルコンテンツの質を磨いて輝きを放っている2つのメディアを深く掘り下げて分析してみたいと思います。
ひとつは前述の「住」に特化したバーティカルメディア「iemo」。もうひとつはレシピ検索に特化した「クックパッド」です。
【ライフスタイル】特化型:iemo(イエモ)
iemoは住まい・インテリアといった「住」に関する情報のキュレーションメディア。軸足は必ず「住」に置いたまま、マスキングテープを使った簡単なデコレーションから本格的なリフォーム・一戸建て建築までコンテンツとして取り扱っています。
iemoを訪れる読者は、決して物珍しい情報を求めてくるわけではありません。実用的で、明日から生活に取り入れることができるような身近な情報がメインなんですね。そして豊富な写真と興味をそそるキャッチフレーズ、まさに隙のないバーティカルメディアと言えるでしょう。
コンテンツの中心は、クオリティの高いまとめ記事
気になるその内容は、キュレーターが日々住まいやインテリアに関する情報をまとめていくコンテンツとともに、企業が自社の商品やサービスに関する写真を登録し、それをユーザーや企業がまとめていくというビジネスアカウントが用意されています。
試しに記事をひとつ読んでもらえばわかりますが、ひとつひとつの写真のクオリティがとても高いんです。かつ非常に丁寧。ユーザーの96%が女性で、20代後半~30代。多くの記事がソーシャルメディアで拡散されている理由がよくわかりますね。
ちなみに収益モデルは、インテリア・不動産など企業からのネイティブ広告が主。iemoのユーザーは間違いなくその方面に興味のある人たちでしょうから、これ以上にないくらいフィットした広告モデルですね。
代表取締役CEOの村田マリ氏曰く、来年にはマッチングサービスを開発していくとのこと。ユーザーからリフォーム等の具体的な要望が出てくるのであれば、それに合わせて企業サービスを紹介していけばうまくマッチングを図れるかもしれません。そこで手数料を取ることも可能になりますね。
iemoのモデルは米「Houzz」
iemoにはモデルがあります。それがアメリカのインテリア・リフォーム特化型「Houzz」です。
比較してみるとよくわかりますが、非常にリスペクトを感じるデザイン。Houzzの良さを踏襲しつつも、日本人の嗜好に合わせたコンテンツ・デザインに変更されているようですね。
参考:「iemo」の成功から広告が学べること——創業者の村田マリさんに聞きに行く
【レシピ検索】特化型:クックパッド
「食」をテーマにしたメディアは、それこそ山のようにあります。ぐるなび・ホットペッパーグルメのように外食店を検索できるサイトや、実名制グルメ検索サービスのRettyなど、枚挙に暇がありませんね。
その中でクックパッドは、「レシピ検索」に特化したメディアとして確固たる地位を築いています。
大カテゴリ「食」の中の、小カテゴリ「料理」に特化
さらに、ここでサイトトップページ左側にあるメニューを見てみましょう。
レシピ、料理動画、献立、ベビー&ママ、ダイエット、料理教室などのコンテンツメニューが並んでいます。見ておわかりの通り、クックパッドにあるのは「料理」にまつわるコンテンツのみです。つまり、提供するコンテンツを「食」という大カテゴリの中にある「料理」に限定しているんですね。
そう、クックパッドは「食」という限りなく広い分野の中で、「料理」という限られたテーマに絞ってコンテンツを提供しているバーティカルメディアと言えるのではないでしょうか。
何を当たり前のことを…と思われるかもしれませんが、ここがクックパッドがバーティカルメディアとして優れているところではないかと考えています。
水平展開の外食ではなく、垂直展開の特売情報を取る
クックパッドの月間利用者は5000万人を超えています。これだけのユーザーを抱えていれば、事業を「食」に絡めた多方向に広げていくことで、さらなる拡大を図ることもできるはず。
「料理」に特化するクックパッドであれば、次はその真逆である「外食」に踏み込むことも可能でしょう(成功するかは別として)。
例えば、完成したメニューと同じ系統の料理が食べられる外食店を関連情報として載せたりすることは可能なはず。ひょっとしたら一定の需要(家食+たまに外食派など)をまかなえるかもしれません。
しかし、2012年10月に事業拡大を図るクックパッドが取った新しい施策は、スーパーの特売情報を閲覧できるサービス「シュフモ」との連携でした。
クックパッドに掲載されているレシピとスーパーの特売品が結びついて、より家での料理に対するモチベーションが上がる仕組みを取ったというわけです。
あくまで「料理」にこだわり続ける姿勢
おそらく自宅で料理をせずに外食に頼りきりの方は、クックパッドというサービス名を知っていても、ウェブサイトを見たことすらない方もいるのではないでしょうか。
そういった外食派をクックパッドが取り込むことは難しいでしょう。しかし、「料理を作る」という限定された目的に関するあらゆる情報が詰まったクックパッドというメディアは、家食派の方に絶大な支持を受けました。
その結果は、月間5000万人というユーザー数と、20〜30代女性の8〜9割は利用するサービスになったという形に現れていますね。クックパッドはバーティカルメディアの鑑であるとともに、もはやメディアの域を超えて「料理」に関するプラットフォームであると言えるでしょう。
バーティカルメディアは忍耐のメディア
ここまでバーティカルメディアとしての成功例を挙げてきましたが、現実問題としてバーティカルメディアは持続させるのに非常に忍耐が必要な面があります。
というのも、垂直に事業を広げるということは、コンテンツの情報量を深堀りしていかないとならないことと同義だからです。それだけ情報を集める能力や人手も必要になってきますし、深堀すればするほど情報を扱う難易度も跳ね上がります。
そこでやってしまいがちなのが、テーマの一貫性を保てなくなること。
「◯◯に特化したキュレーションメディア」としてローンチしたサービスが、少しずつ水平展開を図り、いつのまにやら原型をとどめていないサービスに様変わりしているなんてことは、よくあることですよね。ラーメン一本で勝負していた店が事業拡大のためか客の要望のためかいろんなものに手を出して、ファミリーレストランの出来損ないに成り果てるかのように…。
といっても、必ずしもそれが悪い方向に進むとは限りません。事業を並行拡大していくことでポータルサイトの体を成しえることもありえますからね。軸足をメインテーマに置きつつ、関係性の深いコンテンツに手を伸ばすのは至って自然なことではあるでしょうし。
サイトへの導線確保は急務!特化するほど見つけにくい?
また特化したコンテンツを扱っていることから、ユーザの導線がどうしても細くなりがちです。
端からそのテーマに興味のある方なら検索などで辿り着くことは可能でしょうが、そのためのSEO対策や別のポータルからリンクを張るなど、様々な経路を考えておかないとユーザに見つけてもらうことすら難しいのがバーティカルメディアの特徴でもあります。
このようにバーティカルメディアは、制作するのはともかく成長させるのが非常に難しいメディア形態であることがわかります。そのテーマに紐付いた深い内容の優良なコンテンツが備わっていなければ、バーティカルメディアとして生き抜くことはできないでしょう。
広告という収益モデルとの相性の良さ
バーティカルメディアはテーマを絞ったメディアであるがゆえに、広告主にとっては非常に出稿しやすいメディアでもあります。テーマを絞っているということは、そこを訪れるユーザーもすでに絞られているからですね。
純粋なリーチ数は総合的なメディアに比べ減るかもしれませんが、ユーザーの嗜好とマッチした広告を出稿しやすい点は大きなメリットとなるでしょう。
多くのメディアは収益を広告に頼っています。今年はネイティブ広告、動画広告といった新しいタイプのウェブ広告が出てきましたが、結局広告であることは変わりません。
メディアで収益を得るモデルとしては広告の他にユーザ課金や物販などもありますが、一般的なメディアでは難しいかもしれません。
そういった現状もあり、極力広告で得られる収益を最大化したいはず。その際にバーティカルメディアは広告主にとって魅力ある存在となる可能性があります。
成功するメディアとは?
前述の「iemo」を運営されている代表取締役CEOの村田マリ氏はNewsPicksのインタビューで、
「2014年の夏頃、 バイラル、キュレーションは人気化して、レッドオーシャンになります。だから、その分野でトップを取っていないメディアは死にます」
と述べています。さらに、
(前略)「この人たち分かってるわ〜」と思ったメディアは「MERY」だけですもん。他のバイラル、キュレーションは、現状、読み物に留まっちゃっているので、“表面”しかない。“背骨”が存在しない。
たぶん、今後残るキュレーション、バイラルメディアは2つか3つじゃないかな。皆が我々みたいにメディアに背骨を通さなきゃダメだなと学習して、ちゃんと作れば別ですけど。今のままなら、あらかた消滅すると思う。だって、魂を感じないですもん。」
とも。なんとも清々しいお言葉。
参考記事:私が、DeNAに「iemo」を売った理由
いいコンテンツが正当に評価される時代
トレンドとしてバーティカルメディアが来るとしても、結局のところ軸のしっかりとしたビジョン・コンセプトを持ったものでなければ生き残ることはできない、これはどんなメディアであっても当たり前のことではないでしょうか。
借り物のコンテンツだけで優位性を保つのは難しく、例えトラフィックを稼げたとしてもそのメディアのオリジナリティを担保するのは、やはりオリジナルコンテンツでしかないのが実情です。
乱立するバイラルメディアやキュレーションメディアが脚光を浴びた先に待つのは、いいコンテンツをつくるメディアが正当な評価を得る時代なのかもしれませんね。
以上、『2015年躍進するメディアは『特化型』か!?「iemo」「クックパッド」などから見るバーティカルメディア成功の鍵』でした。
追記:この記事を投下した12月19日に、DeNAによる新キュレーションプラットフォーム『CAFY(カフィ)』がリリースされました。記事でも取り上げた「iemo」「MERY」による共同運営のようです。
iemoが住・MERYが衣・CAFYが食を担当するということで、衣食住をカバーしたキュレーションプラットフォームが生まれたことになりますね!
この3メディアが今後どのように絡んでいくのか、目が離せません!
参考記事:
Win-Win-Winを実現するバーティカルメディア【用語解説】
【参考】国内のWEBサービスの成功事例とか要因とか課金方法のまとめ
サーバー代が払えない時代を乗り越え上場したクックパッドの成功譚~クックパッドビジネスモデル研究~
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この記事を書いた人:ソーシャルメディアラボ編集部