マーケティング責任者必見! 売上に繋がるSNS戦略とマーケティングリサーチの流れ
2022/03/25
株式会社ガイアックス データサイエンスチーム リーダーの山之内と申します。弊社データサイエンスチームでは、データの解析や機械学習モデリングのほか、マーケティング・リサーチやそれに基づいた戦略策定などを行っています。クライアント様のSNS戦略関連の業務についてお手伝いをさせていただくことも多々あり、今回はこのSNS戦略についてお話しいたします。
個人的な見解ですが、SNSに関する巷の事例において、改善のための議論が定性的なものに終始していたり、アルゴリズムハックの議論ばかりがあふれているといった現状があると感じます。本稿は、その状況に一石を投じたく執筆させていただきます。
1. 前提:現状、SNSマーケティングには戦略が不足している
前提、弊社にお寄せいただくSNS関連のご相談は、粒度も方向性も多岐に渡ります。
- SNSを売上につなげたい
- SNSをどのように運用すべきか考えたい
- ユーザーに響く投稿を作りたい
マーケティングにおける戦略策定の一連の流れ
本来戦略は上記のような順番で考えていきます。上位のマーケティング戦略が定かでないままにSNS戦略(SNS活用の方向性)を考えることは困難を極めます。しかしながら、組織体制やケイパビリティの問題もあり、実際に明確なマーケティング戦略に基づいて事業運営ができている企業は多くありません。
そのため、弊社ではSNS戦略を考える前に、まず市場構造や顧客心理の分析を通じて、マーケティング戦略の明確な策定まではいかないまでも、誰をターゲットに何を伝えていくかを決めることで、何が事業成長に貢献するかを提示します。その後にSNSが担うべき役割を決めていきます。
ここから先、弊社がSNS戦略を考えていく一連の流れを、架空の「サービスA」を運営する「企業B」に対するコンサルティングイメージとしてご紹介します。
2. ケーススタディから学ぶ、上流工程からSNS戦略を策定する流れ
ステップ0:ヒアリングと合意形成
サービスAの担当者いわく、
「これまでTwitter運用は一定行ってきたが、あまり売上等につながっている感触がない。事業成果に貢献するような、中期的な運用方針を相談したい」。また、「サービスAが狙うべき市場や、注力的に獲得しなければならないターゲットについての議論はあまり出来ていない。それに向けた市場調査などもほとんど行えていない」とのこと。
そのため、弊社からはこの行えていない部分から着手し、その後、Twitterの方針を考えていこう、とご提案し、それに対して了承をいただきました。
ステップ1:市場構造の分析
一通りのデスクリサーチを済ませた後、調査会社保有の消費者パネルへアンケートによる定量調査を通じて市場全体の構造を把握します。
聴取内容は、競合他社サービスを含めたプログラミング学習サービスの認知や利用状況、プログラミング学習にあたって重視する点などです。これにより、どのように市場が形成されているかを俯瞰します。
まずは「顧客ピラミッド」を見ていきます。これは、サービスや商品の顧客層全体を、図のようなの5セグメントに分類し、それぞれのボリューム(推計人口)を把握するためのものです。これを競合サービスと比較したり、顧客の属性ごとに分析することで、サービスの伸びしろがどこにあるのかを探ります。
参考:西口一希「たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング」, 翔泳社, 2019年
企業Bの担当者様は、当初の予想として、競合と比べてサービスAの認知が少ないのでは、と言っていましたが、実際に調査してみると、競合他社サービスとサービスAとの認知には差分が無いことがわかりました。また、このプログラミング学習市場全体で見たピラミッドからは
・サービスAの離反顧客の割合が高い
といった結果が得られました。
しかし、これだけではまだ打ち手には繋がりそうにないので、さらに軸を切り分けて分析します。
プログラミング学習の習熟度ごとに分けて分析すると、「プログラミング学習の中級者以上の層から、サービスAは認知されているものの、その利用が明らかに少ない」ということがわかりました。次のステップでこの原因や解決策を考えます。
ステップ2:顧客の声を深堀り
ここまでの調査では、なぜそのような状態が起きているのか、どうやったらそれが解決できるのかは、まだ不明瞭です。これらの疑問点は、別の手段を用いて深堀りします。
次の段階として弊社がよく用いるのは、下記の調査法です。
- デプスインタビュー(1対1のインタビュー調査)
- ソーシャルリスニング(主にTwitterを対象とした、ネット上の口コミの解析)
■関連記事:
SNS担当者必見! 最新のソーシャルリスニング徹底解説
明日から使える! ソーシャルリスニングのやり方「時系列情報調査」を解説
これらの方法で、サービスAユーザーの中から「認知未利用顧客」や「離反顧客」の声を調査したところ、1つ気付きが得られました。それは、
・サービスAは初級者のみが使うイメージが強く、中級者以上の方からは敬遠されがち、
ということです。
しかしここまではサービスAのご担当者様からも「想定通り」とコメントをいただいています。問題は、この状況を覆すことは出来るのか、という点です。それを考えるため、今度は自社サービスAの「ロイヤル顧客」の中から中級者以上の声を傾聴すると、
・競合他社のサービスや、競合として比較対象となるようなプログラミング学習の書籍などは、ユーザーが自分でPCをセットアップして学習する設計になっているが、サービスAは、サービス内で直接プログラミングを行える仕様のため、環境構築が不要であることが便利
という声が見えました。
これは競合他社には真似し難い部分であり、サービスA独自の強みとなります。
他にも
・学習ステップが細かく区切られており、空いた時間にさっと気軽に学習できる
といった点も響いているようです。これらを中級者以上の顧客に伝えていくことで、新規獲得や利用促進に繋げられる可能性が高りそう、という仮説が立ちます。
ステップ3:仮説の検証
次の疑問は、中級者以上の顧客が実際に獲得できるのか、という点です。
これを検証するために、まずはコンセプトテストを行います。
コンセプトテストとは、サービス、商品の特徴や便益をコンセプトシートと呼ばれるシートにまとめ、それを利用したいと思うか、買いたいと思うかなどを、アンケートを通じて聴取する調査です。ここでは「新しい言語も手間をかけずに気軽に学べる」という便益が響くかの検証を主目的に置きますが、比較のため、他の便益を押し出したコンセプトも同時に検証します。
結果として、この便益によって十分な量の顧客が、サービスAに対して高い利用意欲を示しました。
一般的にはこの程度の検証で十分かと思いますが、ここでは中級者以上の顧客は、そもそも現状でどの程度プログラミング学習をしているのか、といった点にも目を向けます。彼らが普段プログラミング学習を行っておらず、かつそれを喚起する余地も無いとなると、そもそも彼らを獲得することが売上につながらない可能性が高いためです。
そのため、もう一点分析を加ええます。NBDモデルという数学モデルを用いた分析です。対象となる顧客に「最近いつプログラミング学習サービスを利用したか」「最近いつプログラミング学習のための書籍を読んだか」といったアンケートを取り、その結果をNBDモデルの数式に当てはめて分析することで、対象者がどの程度プログラミング学習をしているのかが見えてくるというものです。
■参考記事:
「確率思考の戦略論」で紹介された需要予測Excelでできる説
今回は、中級者以上のプログラミング学習者は十分にプログラミング学習行動を取っているという結果がえられました。
これらの分析により、「プログラミング学習の中級者、上級者」向けに、サービスAは「新しい言語も手間をかけずに気軽に学べる」ことを伝えれば顧客獲得や利用促進に繋がる、といった戦略の方向性が見えてきました。
ステップ4:Twitterの目的設計
ここまで分析したところで、Twitterの運用について考えます。
この戦略にTwitter運用を準拠させることは正しいのか?という点を検討しなければなりません。SNS運用の強みは、主にフォロワーに対して継続的な接点を持てるという点ですが、逆にフォローもしてくれないような人への訴求は向いていないのです。
実際に今回のケースでも、プログラミング学習興味層(興味はあるがまだ手をつけていない)の新規顧客獲得余地はまだ十分にあることが見えましたが、Twitterはこの層への訴求には適さないと判断し、広告施策の方針としてご担当者様にご提案しました。
このような検討や、プログラミング学習中・上級者はTwitterの利用頻度が高く、情報収集に活用する傾向が強い、という定量調査の結果などをもとに、Twitter運用の目的を「プログラミング学習中級レベル以上顧客の獲得・利用促進」であると定義しました。
一般的にはTwitterのオーガニック(広告やキャンペーンではない)運用は新規顧客の獲得には適さないことも多いのですが、今回は以下のような点も踏まえて、このような設計に倒しました。
- 広告やキャンペーンによって、サービスAへの関与度が高くない層に対してもアプローチできるリソースがある
- 完全に新規の顧客の獲得だけでなく、離反顧客(サービスを現在は使わなくなってしまった顧客。新規の顧客よりもフォローしてくれる可能性が高い)の呼び戻しや、一般顧客、ロイヤル顧客の利用頻度向上に対して有効に働く
ステップ5:フォローを促すための設計
SNSの運用は最初にターゲット層をフォロワーとして獲得しないと始まらないことがほとんどです。今回は既に一定数のフォロワーが存在していましたが、アカウントの分析などを通じて、中級者以上のフォロワーに関しては獲得余地が高いと判断。どういうアカウント設計にすればターゲットがフォローしてくれるかを考えます。
- 普段どのような情報を収集するか
- どういったきっかけでSNSアカウントをフォローするか
- どういったきっかけで教材を購入したか
こういった内容をインタビュー調査によってヒアリングし、設計していきます。今回は「キャンペーンやセールの情報、有名エンジニアのキャリアなどのコンテンツ」を定期発信すると、ターゲットのフォローを促進できそうであると判断しました。
また、このインタビュー時に「どういった情報が求められるか」「意外性を感じさせるものはなにか」といった情報も得られますので、キャンペーンの企画や拡散される投稿づくりなどに大いに役立ちます。それではここまでで得られた情報を元に、戦略を整理します。
Twitter運用の目的
プログラミング学習中級レベル以上顧客の獲得・利用促進
運用方針
・ターゲット:
-(主にサービスAを認知している)プログラミング学習中・上級者
・伝達内容:
-手間をかけずに気軽に学べる
└特に、興味を持った言語を短いステップでサクサクと学習できる点
・フォロワー獲得のためにやること:
-キャンペーンやセールの情報は都度投稿
-キャリア関連を中心としたコンテンツを定期的に投稿
その他
この後上記に基づいて、具体的な設計を行います。例えば、一般的な運用であれば下記を準備します。
- フェーズごとの運用整理
- 投稿内容設計
- プロフィール設計
- 広告運用設計
3. 最後に
今回の流れを整理します。
- 定量調査をベースに市場構造を分析
- インタビューとソーシャルリスニングで顧客の声を深堀り
- 仮設を検証
- Twitter運用の目的を設計
- フォローを促すための設計
今回のイメージは大部分を簡略化しており、マーケティングに精通している方であれば物足りない部分もあったかと思います。例えば、本来なら課題の特定に向けた市場構造の分析は、競合のプロダクトや広告、プログラミング学習ニーズの動向なども踏襲して行います。
また、SNS以外のマーケティング・コミュニケーションを無視してTwitterだけをこのような目的に倒すのは多くの問題があるため、この点のすり合わせは入念に行います。すでにフォローしてくれている、初学者を中心とした既存の顧客に嫌われない設計であることも大切です。
その他、カスタマージャーニーを描いた上で、顧客の生活のどこにコンテンツを当てるのか、ほかの顧客接点との兼ね合いはどうなるかといった設計も非常に重要です。併せて、必要であればSNS上の口コミをどう促進するかという分析と設計も同時に行います。
更に本音をいうと、Twitterの特性を生かした最終的な運用設計の考えかたについてもっと掘り下げてお話したかったのですが、
今回の記事を通じてお伝えしたかったのは、SNS運用も上位の戦略から順を追って戦略的に設計すべきではないか、ということです。多くの企業様は「とりあえずSNSを使ってみよう!」となりがちですが、それでは中長期的には成果に繋がりにくいのが実情です。
また、SNSは双方向のコミュニケーションに適したメディアとして注目されてきたこともあり、もっと肩の力をぬいて運用をすべきでは、といった意見もあるかと思います。場合によってはその通りです。しかしそのような場合でも、誰にどのような影響を与えてビジネス上の成果に繋がるのか、といった設計は確実にもっておくべきです。
「SNSをうまく活用したい」という課題に直面している方々に、本記事が少しでも参考になれば幸いです。
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この記事を書いた人:山之内稔真