「信じたいものを信じる」、Post Truth時代へ。 ソーシャルメディアはどこへ向かう?
2017/04/24
米国の大統領選挙以降、日本でも「フェイクニュース(偽ニュース)」の話題を耳にする機会が多くなりました。ソーシャルメディアによって情報の拡散がより活発になっている現代、私たちはもっと注意深く情報を取捨選択しなければならなくなってきています。
本記事では、そもそも「フェイクニュース」とはどういったものなのか、またソーシャルメディア時代の今後はどうなっていくのか考察していきます。
- ■目次
- フェイクニュースとは
- フェイクニュースが流れやすい環境とは
- マスメディアの権威衰退とPost truth時代の到来
- 今後どのような未来になっていくか?
1. フェイクニュースとは
フェイクニュースは事実と異なる、ウソの情報がニュースとして広がることですが、冒頭でも紹介したとおり米国の大統領選がきっかけで、特に問題視されるようになりました。マケドニアなど米国国外の悪質なネットユーザーが中心になってPV数を上げて広告収入を得るために、ウソをでっちあげていました。
ただ、そのうち広告収入を得るという「小遣い稼ぎ」の側面から、情報に触れた人の「誘導」に重きが置かれるようになりました。具体的には、ドナルド・トランプ支持者からのページ閲覧数が増えるように、「ヒラリー・クリントン支持者が子供たちを地下室に監禁している」といったウソのニュースまで流されていました。
ただし、ヒラリー氏を攻撃する上記のようなフェイクニュースは、実はヒラリー支持者のFacebookのフィード上にはあまり流れてこなかったといいます。詳しくは次項で述べますが、それはFacebookのアルゴリズムが支持者間で盛り上がりやすい(流れてきて反応したくなる、支持する気持ちが高まる)情報を判別して、届きやすい仕組みになっているためです。
2. フェイクニュースが流れやすい環境とは
自分たちが信じたいものが「事実」に
フェイクニュースはFacebookやTwitterなどSNS上でも流れたといわれています。なぜウソの情報が流れることになったのかを、本項で説明していきます。
Facebookは「~~さんがいいね!しています」という表現からも分かるとおり、投稿が他人からどう見られるのか、良い反応を得られるのかが鍵となります。そのため、アルゴリズム的も、ユーザーの心理的も「評価されやすいものを投稿しよう(上位表示させよう)」という方向に働きます。
そうして、自分たちが見せたい、評価してもらいたい情報がじわじわとバブルのように広まっていくのです。そのため、もしその情報が事実でなかったとしても、評価されたものがあたかも事実のように思われてしまうのです。
こうした現象は、英国の経済学者ケインズが提唱した「美人投票」の理論と一致しています。これは同氏が株式投資を美人コンテストの投票になぞらえた話として有名です。当時英国で行われた美人投票は、たくさんの美人の写真のなかから「もっとも投票が集まりそうな人」を数枚選択する形式で行わていました。つまり、「美人である」かどうかの事実は直接的な評価軸ではなく、まわりの人々が投票しそうな美人を選ぶことが重要視されていたのです。
一部のSNSユーザーの間でフェイクニュースが広まった背景とは
フェイクニュースの誕生で明らかになったのは、SNSのアルゴリズムが人々を分断してしまっているということです。「社会の縮図」ともいえるソーシャルメディアにおいて、いろいろな人の意見や考えに触れることは欠かせない要素だったはずが、アルゴリズムが各人の趣味嗜好に沿って情報を選び出すせいで、他の情報を隔絶するような空間になってしまっているのです。自分のタイムラインが世界のすべてだと思っている人も実際にいるでしょう。
他の集団の意見をうかがう機会が失われ、信じたいものを「事実」として受け入れている人同士がお互いに意見を語り合い、特定のコミュニティのなかで絆が強固になって、偏った情報がはびこってしまう状況を「フィルターバブル」や「エコーチェンバー」ともいいます。こうした流れを受けて、ソーシャルメディアが社会を分断するような力を持ち始めました。
まとめるとFacebookなど主要なSNSでは、アルゴリズムにより「ユーザーがどう思っているか?」が重視され、コミュニケーションが成り立っているプラットフォームであるため、フェイクニュースが広まる環境としてはぴったりだったのです。
もちろんこれはFacebookだけでなく、アルゴリズムで投稿の表示順が変わるTwitterやサジェスト機能で動画がおすすめされるYoutubeにも共通している問題です。SNSの機能が向上したことで人々にとって便利になる一方、繰り返しになりますが、自分にとって都合の悪い情報や、反対意見として本来知っておくべき情報まで届きづらくなっているのです。
3. マスメディアの権威衰退とPost truth時代の到来
「Post Truth」という言葉をご存知でしょうか。客観的で公平な情報よりも個人の考えや感情が「事実」を形作っていることを指します。情報化が進んで、今まで事実だと思われていたものが不確かに感じられた時、人々は自分たちが信じたいものを「事実」と思い込んでしまうのです。
この「Post Trutth」について述べていく前に、これまでを振り返ってみます。まだSNSが出てきて間もなかったころには、ソーシャルメディアは今のように社会を分断するような強力な力をそこまで持っていませんでした。
かつて人々のあいだでは、マスメディアが「真実を語る」というのが一般的で、権威がありました。当時、人々はマスメディアが語る情報を自分たちが信じるうえでの裏付けにしていました。しかしインターネットが普及してから、人々のなかに「マスコミは必ずしも信用できない」という認識が共有されて権威性が薄れていったことで、状況は変わっていきました。
もともと、ラジオやテレビ、新聞などのマスメディア自体が必ずしも「事実」を伝えていたわけではのないですが、そういった権威の衰退が信じるべきものよりも「信じたいもの」を信じる、という流れを引き込みました。フェイクニュースのように、その情報が仮に正しい情報でなくとも、人々は信じてしまうのです。
まさに前述した「Post Truth」の時代が到来しています。当たり前のことですが、多くの人にとって「何か真実か」を見極めるのは簡単ではないため、人々は社会的立場が高い一定層が設けたルールを「真実」として受け入れていました。ただあらゆる情報が流通するようになり、あやふやだった「真実」が明るみになってくるにつれて、マスコミを含めそれまで「真実」を規定していた層への反発も加わり、今や自分たちの信じたいものを尊重する時代になっているのです。
4. 今後どのような未来になっていくか?
分断ではなく、結びつける仕組みが必要
大統領選でフェイクニュースの舞台の一つとなったFacebookでは、偽ニュース対策が講じられています。これからのFacebookやその他のSNSには、どのような動きが予想できるでしょうか。
アルゴリズムの構造上、現在のFacebookやTwitterは、けられる情報が分断されている、つまり人と人が分断されるメディアになってしまっています。友達やフォロワーがいいね!やリツイートによって特定の情報が上位に表示されやすくなり、触れる情報が偏っていくということです。
今後、そういった「フィルターバブル」の状況を打開する一つの手段は、PinterestやLinkedinなどが持つ、人と人との分断を防ぎ、情報をフラットに届けてお互いを結びつける仕組みの導入です。
たとえばPinterestは純粋に自分の好きなことを集め、知るためのページ(画像)共有メディアで、Linkedinは情報を取捨選択し、整えてからユーザーに配信する編集者がいるメディアです。それらには分断が見られず、人とコンテンツ、または人と人を結びつける仕組みが見受けられます。
フェイクニュースによって分断された人々は、互いの主張に根拠がないこともあって、対立の一途をたどり常に敵を求めている状況です。そういった意味で、今後のSNSにはPinterestやLinkedinのように情報が偏らないフラットな構造が求められているのではないでしょうか。