男性向け料理動画メディアNo1『GOHAN』に聞く、動画メディアのこれからと運用ノウハウ
2017/07/24
注目を集める動画メディア。料理動画はもちろんのこと、ファッション動画メディアやおでかけ動画メディアなど多種多様な動画メディアが乱立しています。
それぞれのプレイヤーが多くのユーザーを抱えつつも誰が勝つかわからない戦国時代へと突入しています。その中で後発ながら男性向けの料理動画メディアで急成長を遂げているのが、株式会社トピカが運営している『GOHAN』。今年7月でリリース1周年、フォロワー総計43万人に到達しました。成果の裏には一体どんなノウハウやテクニック、技術があるのか。代表の麓 俊介氏にお話を伺いました。
text / ソーシャルメディアラボ編集長 大久保亮佑
1. プロフィール
麓 俊介氏:株式会社トピカ 代表取締役社長
2. プログラマーからトッププランナー、そして起業へ
大久保:まずは簡単に、麓さんのキャリアと現在運営されているメディアについてご紹介いただけますでしょうか?
麓氏(以下、敬称略):トピカでは現在、自社動画メディアの運営と動画メディアにまつわるビジネス支援といった事業を展開しています。
僕のキャリアはゲームクリエーターとしてスタートしました。ポケラボという会社へプログラマーとして入社し、途中で企画職に転向し、ディレクターやプランナー、プロジェクトマネージャー、プロデューサーなどを歴任しました。
ポケラボはセガと一緒にリリースした『運命のクランバトル』というタイトルが売れ、会社は急成長。1年半くらいで300名ぐらいに伸び、入社3年後にはGREEと戦略的資本業務提携。僕はそのまま3年間GREEに在席し、2016年3月末に退職。2016年5月にトピカを創業しました。
トピカでは創業時から男性のための料理動画メディア『GOHAN』を運営しています。トピカの事業を考えるにあたって、伸びている市場として注目したのが動画市場。また分散型メディアはコスト的にも抑えやすいのでスタートアップにも参入しやすい。
そして当時、料理動画メディアが多く出てきていたけれど、すべて女性向けで僕自身が食べたいと思うものがひとつもなかったんです。僕は男性だし、男性の気持ちしかわからない。だったら男性のためのメディアを作ろうと思い、立ち上げました。
マーケティング的な観点でいうと、料理という市場はとても大きい。これは女性向けメディアで実証されていますが、男性側はガラガラでした。無論、男性のニーズがないのではない可能性もあったのでテストマーケティングを実施し、自腹で少しだけ集客をしてみました。その結果を見て、これはもう突っ込むしかないと考え、『GOHAN』を立ち上げました。
3. ソーシャルゲームのノウハウが活きる動画メディア『GOHAN』
大久保:GOHANはどのように運営されていらっしゃるのでしょうか?
麓:まずメンバーでいうと、『GOHAN』は男性向けのメディアということもあり、メンバーも全員男性です。料理研究家も男性ですし、レシピ考える人間も皆男性。現在は日々6〜8品のメニューを作り、うち2~3本を採用して配信するスキームで動画を作成しています。
大久保:なるほど、すべてを配信しているわけではないんですね。そして意外と歩留まりが悪いんですね……。
麓:おっしゃるとおりです。効率を求めれば無駄なく制作することもある程度はできるでしょう。ただtoCのビジネスということもあり、ユーザーにメリットを提供できないものは配信すべきではないという思いが強いです。例えば盛り付けが想定通りにならなかったり、味付けがよくなかったり、GOHANっぽくなかったり。さまざまな理由で、すべては配信まで行かないですね。
▲料理動画の投稿
GOHANでは僕のソーシャルゲーム時代のノウハウが思いのほか活きています。ソーシャルゲームってインターネットサービスのtoCビジネスにおけるノウハウが集約されているんです。ユーザーへの接し方や、ものごとの考え方、情報の伝え方、コンテンツの作り方まで。ソーシャルゲームで学んだことを様々な場面で活かしています。
4. SNSプラットフォームのアルゴリズム対応が命
大久保:リリースから1年ほどですが、ここまでの運用で得た気づきなどはありますでしょうか?
麓:想定ユーザー以外にも大きく波及している点は非常に面白いと思っています。GOHANのコンセプトは「1分お手軽オトコのゴハン」で、動画も男性向けの料理しかあげていません。ですから当然、最初集まったユーザーは独身男性が多かった。ただメディアの規模が大きくなるにつれ、既婚者の男性や、さらにはズボラな料理の好きな女性、男性に作りたいレシピを探す女性も増えてきているんです。
起点となるコンセプトは全く変えていないのですが、それをとらえるユーザーは多様化してきている。ぼくらはそれを逆手にとって、多様化することで集まったデータをもとに、最適なコンテンツを作っていくことができる。正直最初はユーザー層が広がりデータがたまっていくことは想像していませんでした。
大久保:ユーザー数も急速に増えていますが、運営する上で意識している点などはありますでしょうか?
麓:コンテンツの質ももちろんですが、各ソーシャルメディアの攻略は常に意識しています。ぼくらはSNSプラットフォーム上で配信しているので、プラットフォーマーの動きに大きく左右されやすい。彼らの動きを敏感に察知するという能力は常に研ぎ澄まさなければいけません。毎週データを振り返り「なぜこの数字なのか」を細かく見ていきます。そこで、こういったアルゴリズムが適用されたんじゃないか、こういう傾向にあるんじゃないかといった仮説を立てる。その仮説のもと翌週の運用を行うというスキームを繰り返しています。
大久保:Facebookはニュースフィードアルゴリズムに関するニュース(※)が発表されていますが、それ以外にも変更はあるんですか?
※https://newsroom.fb.com/news/category/news-feed-fyi/
麓:かなりありますね。あとはプラットフォーム側ではなく、競合との関係性という外的要因で変わって来ると思うんですよ。 なのでその点のバランスもうまくとりながら運用する必要があります。ニュースフィードは有限なので、他のメディアの投稿がフィードに出ると相対的にリーチできなくなりますし。
大久保:なかなか言えない部分も多いと思いますが、面白いですね。笑 Facebook以外のSNSはどのような使い分けをしているのでしょうか?
麓:現在はFacebook、Twitter、Instagram、YouTubeの4つのSNSで運用しており、最もビューを稼いでいるのがFacebookです。全体の7割はFacebookからの数字ですね。Instagramが2割で、残りの1割がTwitterとYouTubeです。それぞれ役割を設定しており、Facebookは収益を上げる場です。動画のフォーマットも最適化し、積極的に数字を取りに行っています。InstagramはFacebookのオプション的役割。Twitterは正直あまり重要視していません。YouTubeは動画SEOの勉強の場に使っていますね。
大久保:正直YouTubeはそこまで詳しくないのですが、動画SEOはどのように学んでいらっしゃるんでしょうか?
麓:一番わかりやすいのはYouTuberの方々を参考にすることでしょう。彼らは動画SEOの最先端です。サムネイルの作り方や、タイトルのつけ方、タグのつけ方、投稿内容とそのタイミングも含めすごく参考になる部分が多い。Youtubeは他のSNSとは戦い方が全く異なります。Facebookの場合独自性があるコンテンツを提供し満足度をあげることが大事なんですが、動画SEOは結構ハックに近いです。
たとえば清涼飲料水を例にしてみましょう。ヒカキンが「○○を100本飲んでみた!」という動画を作って伸びたとします。すると、他のYouTuberはすぐに同じような動画を作るんです。それは、アルゴリズムによって関連性が高いと判断され、関連動画に載りやすくなるから。関連動画にのると再生数も増え、急上昇にも載りやすくなる。そういった仕組みをハックするものが多いですね。
5. 動画メディアには垂直統合型の運営が必要
大久保:先日、自社メディアの運営だけでなく、動画メディアの運営代行サービスもリリースされたと伺いました。
麓:2017年6月に動画メディア運営代行サービスの『TOPICA WORKS』をリリースしました。『TOPICA WORKS』は自社で運営するなかでの気づきから生まれました。自分でメディアやってみて思ったのが、インターネットサービスには垂直統合型の運営が必要だということ。開発と運営が切り離されていると、意思伝達のスピードが格段に落ち、そのサービスは伸びません。一体化した組織なら、何をもってそのコンテンツを投稿するか、その結果どういう数値を目指すかというコミットがとれる。PDCAを高速で回せる体制を構築できるんです。
逆に体制が作れないと、思ったより数字が伸びないので、社内で予算がおりず、運用がストップする。ぼくたちはその解決策として運営から一体で請け負うスキームを考えています。ただ実際問題、いきなり権限をすべて渡すことは簡単ではありません。最初は制作機能やコンサル機能などを切り出してサービス提供し、最終的には全体をという流れを狙っています。
ぼくらは動画を使って、課題を解決することを生業にしようとしています。その実績として『GOHAN』がある。それに加え、独自開発の動画メディアに特化した運用ツールを用意しています。現在「GOHAN」でこのツールを運用しているのですが、FacebookやInstagramのインサイトでは見られないような数値も我々の場合重要KPI化して運用できるのです。
またツールから動画を投稿するだけでなく、運用に必要な独自のKPIも盛り込んでいます。例えば、動画投稿後の初速データ(投稿4時間以内)から、そのレシピの数値の伸び具合を推測することもできます。現在は定性的にレシピを考案していますが、過去のレシピのデータや傾向からアリ・ナシを判別し、投稿する前から確度を高めていくようなAI機能もゆくゆくとり入れていければと考えています。
大久保:そのAI機能は料理に限らず他のテーマでも利用可能なのでしょうか?
麓:もちろんカスタムできるようにする予定です。現状は「GOHAN」用に作っていますが、今後TOPICA WORKSのクライアントに提供する際には、カスタマイズして提供する予定です。
6. ヒットを打ち続ける仕組みを作る
大久保:TOPICA WORKSもリリースされ、さらに事業の方向性を明確にされたように思います。今後はどのような方向を目指していくのでしょうか?
麓:僕個人としては、イチローになりたいなと思っています。ゲーム開発の時につくづく思ったんですが、ゲームは2年間くらい開発期間があって、5億とか10億とかかけて制作を行います。でも、結果は出してみないとわからないんです。僕自身前職の最後に出したタイトルが、正直あまり反応が良くなく、こんなに悔しい思いは二度としたくないと思いました。だから打率の高いイチローのような人間になりたいと思っています。ただ、「頑張る」といった根性論ではなく、僕は仕組み化して安打製造機になりたいと考えています。
こちらのインタビュー記事が公開されるあたりに、「TOPICA LAB」という動画マーケティングのノウハウをオープン化したオウンドメディアをリリースします。「僕たち自身動画マーケティングをやっていく中で感じたのが、あまりにも世の中に生の情報がないんです。リアルな情報をもっと提供してあげた方が、動画業界も絶対盛り上がるし、企業の方々も喜ぶはずです。我々だけにため込んでいても業界全体の盛り上がりがないと天井が見えてしまいますから、業界と共にトピカも成長できるように、努力していきたいと思っています。