ミレニアルメディア時代が到来。国内初Instagram Storiesメディアを手がけるlute株式会社に迫る!

2018/02/01


2016年からアーティストのMVやライブ映像を制作し、YouTube中心に配信してきたlute。2017年8月に活動をInstagram Storiesに移しました。


たしかに若者を中心に非常に親しまれているInstagramストーリーズ機能ですが、自社コンテンツの配信拠点を思いっきり変更した背景や想いはどのようなものだったのか。lute株式会社の五十嵐氏にお話しをうかがいました。


Interview ソーシャルメディアラボ副編集長 小東真人


    ■目次


  1. プロフィール

  2. luteの始まりと、YouTubeからInstagramへの変遷

  3. Instagram Storiesに合ったコンテンツとは

  4. 今後の展望


1. プロフィール


五十嵐弘彦 氏:lute株式会社代表取締役



2. luteの始まりと、YouTubeからInstagramへの変遷


まずはYouTubeで分散型メディアとしてスタート


小東:そもそも、どういう経緯でluteというサービスを始められたんでしょうか?


五十嵐氏(以下、敬称略):今のエンタメ業界では、いわゆるパッケージ物が売れなくなっています。CDやDVD、録音や録画したものを売買するのがなかなか大変になってきている。ただ、音楽も映像も絶対なくならないわけで、どうにか立て直すビジネスモデルはないかと模索している。その手段が「デジタルじゃないか」と信じて、luteを始めました。


海外を見るとVICEやTastemadeとか、動画関連の事業をやっている人たちが積極的な出資を受けていたんです。自分自身もアメリカのテキサス州で開催された音楽祭・動画祭「サウス・バイ・サウスウエスト」に行ったのですが、みんなプラットフォームの話をするけど、登壇している人は口を揃えて「これからはコンテンツの時代だ」て言っていたんですよ。エンタメ業界でコンテンツを取り扱う人たちみんなが、新しいビジネスモデルを模索している。そこにすごくはまるんじゃと思って、始めました。


まず当時は今よりもPCで映像を見るという環境だったし、デジタル映像っていうのが3〜5分くらいのものがすごく強い時代でした。私がエンタメの中でも音楽から始めているということもあって、音楽と映像と言ったらデジタルといえばMVだろうと。


当時はYouTubeの時代だったから、YouTubeに3〜5分くらいのMVを上げていこうとしました。同時期にNowThisさんがやっていたように、分散型メディアでやっていこうと。基幹はYouTubeに見えるけど、ロゴの載ったコンテンツを広めていき、自媒体だけじゃなくて他媒体にも載る形で伝播させようと。そういう風に始めたのが経緯です。


それが2年前くらいから2017年8月までの一連の流れです。徐々にウェブメディア上でうちのロゴを見る人が増えてきて、ありがたいことに徐々に認知されるようになってきた。また株主さんから「出資するから独立したら」というお話をいただいた。そうして会社化するという話になりました。


2017年8月、Instagram Storiesがメインに



小東:そこからInstagramがメインになったのはなぜでしょうか?


五十嵐:それはユーザーのコンテンツの視聴経験をする場所がモバイルにシフトしたからです。


若い人から聞いたんですが、Wi-Fiで高スペックなMacを使う行為って、逆におっさん臭いと(笑)。「パケットでiPhoneを駆使して使っている方が今のデジタルっぽい」と言われて……すごいショックでした。


少し話が逸れちゃうんですが、私今32歳なんですけど、私たちの世代が一番PCの使い方が上手いんですよ。私たちよりも上の世代のおじさんにPCの使い方を教えていたっていう経緯もあります。けれど、面白いのは私たちが今若い世代にもPCの使い方を教えていることです。彼らの多くはツールはめちゃくちゃ使えるんですけど、全然PCは使えないんです。やっぱりスマホなんです。


そうなると、音楽を伝えるための動画フォーマットは全然変わってくるだろうと感じたんです。音楽や映像を楽しむ体験がこのスマホの画面に適応していなきゃいけないですよね。MVってフォーマットは3分の芸術形態だと思っている人がいるかもしれませんが、全然そんなことないんですよ。そもそも1曲5分っていうのだって、録音物というかメディアに寄せてそうなっているだけの話だし。


また、若者たちが体験できるエンタメのフォーマットって増えてきて趣味が多様化しているため、彼ら彼女らは一つの動画に時間をたくさん割けなくなっているんです。つまり短尺で、よりエッセンスの濃いものじゃないとダメなんです。


色々と検討した結果、縦型モバイル向け動画を出せることに加えて、我々のトンマナにあっているものはInstagram Storiesだと考えました。そこに、デジタルに興味があって、今まで通りレーベルに所属することに疑問をもっているミュージシャンたちがきてくれたので、そういう人たちのマネジメントや映像制作、マーケティング支援を担えるようなエージェンシー業務も立ち上がっている状況です。


3. Instagram Storiesに合ったコンテンツとは


単純にMVだけを流すことはしない


小東:「分散型メディア」というと、各メディアでコンテンツの最適化が求められると思いますが、なにかInstagram Stories用のフォーマットが合ったりするのでしょうか?


五十嵐:「フォーマットは?」というと答えはまだないですね。やりながらじゃないと分からないので。少なくとも2017年8月に始めて11月までの間に、まずはひたすらPDCAでした。


元々YouTubeに上げていたMVは、見ていた方からはクオリティ高くてクリエイティブ度が高いというご評価をいただいていました。なので、そのトーンは残しつつ色々試していきたかったんですね。



http://www.mtv.com/


コンテンツを広げていく上で参考にしているのはMTVさん。MTVって別に、MVを垂れ流している訳じゃなく、テレビ番組や映画、色々やっていますよね。何でもやっているんですよ。そこにストリートカルチャーというか、MTV独自の一貫した文化が根底にある。そういう点を参考にしています。私たちも「MVだけ流します」みたいにはしません。


Instagram Stories用のMVを作る



小東:やはりYouTubeとInstagramでは作る動画も違うのでしょうか。


五十嵐:基本的にYouTubeに上げるものとInstagram Storiesに上げるものは別で考えています。YouTubeは本数を減らしていて、今後おそらくMVだけをやる形になるだろうと考えています。一方、Instagram Storiesは独立していると考えていて、自分たちで作ったMVだけじゃなくて、たとえばレーベルさんが出している新しいMVのプロモーションもしなきゃいけないですね。


Instagram Storiesでいくつかあるうちの一企画としてMVのプロモーションのひと手法なのですが、全プラットフォーム用動画を作ってそれぞれのプラットフォームに合う秒数に切って価格に合わせてやっても、全然受けなかった。


すごく顕著だったのが、YouTubeではMVが回るんですけど、すごくヘビーな15分くらいのドキュメンタリーは全然回らない。また逆に短すぎても全然回らないです。逆にInstagramは短いものは回るけども、ただMV切って上げられても見る側が困るんですね。今やMVという言葉の定義を「3~5分のフォーマットに切り出した動画」とすること自体、厳しい気がします。


そこで今トライしているのは、初めからInstagram Stories用に作った音楽のプロモーションする映像を作ることです。Instagramで見て、面白いからスワイプアップしてMVにもいけるし、ライブ情報にもいけるっていう映像を作るように心がけています。


4. 今後の展望


ミレニアルメディアの時代が来ている



五十嵐:今ってメディアをやるには本当に面白い時代だと思います。


ニューヨークのスタートアップとかを見ていると、パブリッシャーがエージェンシーになり、ミレニアル系のエージェンシーがこぞってパブリッシングとか自分のメディアを持ち始めていて群雄割拠の時代が来ているんです。新しいメディアビジネスが始まっていて、私たちも日本でそれを早々に組み立てていけるようなメディアになりたいと思っています。


なので、ソーシャルプラットフォームとしてInstagramを使うって選択は、自分たちの答えとして間違いなく合っていると思うし、今ちょうど新しいフェーズになっていくのかなと思っています。


先日公開された、WIREDの若林さんの辞任に関する記事(いつも未来に驚かされていたい:『WIRED』日本版プリント版刊行休止に関するお知らせ)、読みました? あの中でも言われているのが、今まさにミレニアルメディアの時代という点です。『Teen Vogue』や『Refinery29』が面白いとか、エクスクルーシビティがなくなってきている話もしていたでしょ。本当にそんな風になっていて、私たちがそれを実現できる場所としてInstagramを選んだり、自分たちがエージェンシーを持っていることだったりなんです。


クリエイターが自分自身をプロデュースするように


小東:新しい時代が来て、改めて御社はミュージシャンたちとどういう風に関わっていきたいですか?


五十嵐:先ほどメディア業務やマネジメント業務に加えて、エージェンシー業務もやっていると言いましたが、エージェンシー業務って別に「動画製作を受託する」って意味じゃないんです。


やっぱりオリジナルコンテンツをやっていくことも新しいメディアの形だと思うし、すごくイケてるミュージシャンが出てくるっていうのもメディアの形の一つだと思うんですよね。そうしたフォーマット作りを私たちは取り組んでいるし、それに賛同してくれる企業さんやメディアさんを探しているという感じですね。


それを全部考えると、今はInstagramなんですよ。タイアップとかも。今そもそもタイアップ機能ついていますからね。すごくいいプラットフォームだなって思っています。


マネジメントについても変わってきています。パッケージ物が売れる売れないみたいな話をしている中で、ミュージシャンが徐々に新しい動きを見せている。海外では、たとえばラッパーのエイサップ・ロッキー(A$AP Rocky)は自分自身が有名になった時に、様々なブランドとコラボし始めて、ネームバリューを上げたんです。次に大手ファッションブランドとかが自分たちを若返らせたいから、彼に巨額のお金を払うようになった。


企業はパッケージの数倍のお金を払って契約しているんですよ。それってたとえば、女優さんの顔が綺麗とか、おっぱいが大きいとかが売りになることと同じで、「音楽ができる」っていう売りによって彼ら彼女らがインフルエンサーになれるってことなんです。DJできます、絵が描けますっていうのも。


一方で、これまでのインフルエンサーたちはそうした動きを見て、単発的に自撮りだけを収めていることにちょっと危機感を持ち始めています。音楽やっている人からしたら、ここは超面白いじゃないですか。


ここが面白いから私たちがやっているし、そういうクリエイターたちが使うツールってInstagramなんです。それがInstagram Storiesメディアとして一緒に作っていく理由です。別に私たちのメディアだけじゃなくって、他のメディアから分散してもいいわけですよね。この分野にエンゲージメントの高い人みんながフォローしているメディアとして機能していく、それだけで十分機能しているっていうのは、とても面白いんです。


この記事を書いた人:小東真人

ソーシャルメディアラボ編集長。地方や中小ビジネス向けセミナーなどを担当。
17年ガイアックス入社のデジタルネイティブ世代。靴磨きが大好きで、休日はInstagramで関連アカウントばかり見ている。

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