「何を言うか」よりも「誰が言うか」だが、誰が言ったかはよく覚えていないSNSの口コミの仕組み

2019/08/08


皆さん、ご機嫌いかがですか? コンサルタントの重枝(@SGDYSK)です。


本日は口コミマーケティングがなぜ重要か、そして口コミをする主体は誰であるべきか、という話です。


    ■目次


  1. 消費者は企業の情報発信を「あえて無視」しているのではなく「無意識にスルー」している

  2. 消費者の無意識の壁を乗り越えるために「口コミ」が効果を発揮する

  3. 「何を言うかより誰が言うか」よりも接触回数が重要という、見落としがちな事実

  4. ガイアックス 重枝義樹の過去記事


1. 消費者は企業の情報発信を「あえて無視」しているのではなく「無意識にスルー」している


口コミマーケティングの重要性をお伝えする前に、「企業から発信する情報がどれほど消費者に届かないか」を紹介したほうがいいでしょう。


まずは口コミマーケティングに関係の深い、81秒の心理実験の動画を見てください。バスケットボールで白い服のチームと、黒い服のチームが入り乱れて、それぞれのチーム内でパス回しをしていますが、よく注意して、白い服のチームが回しているパスの数だけ数えてみてください。




 


答えは15回です。正解したでしょうか?


しかし、正解を出せたからどうこうということがこの実験の肝ではありません。実はこの動画、30秒時点でゴリラが動画内を横切っており、そのゴリラに気付けたかという心理実験に使われる動画なのです。


このゴリラ、ちゃんと数えきった人に限って見落としがちなのですが、気付いた人も、気付かなかった人も、動画を思いっきり見ているので、ゴリラの映像は瞳を通って網膜に映り、視神経を発火させてちゃんと脳の視覚野に届いているはずなのです。なのに見落とす人が多い。



これは「選択的注意」と呼ばれる認知のあり方で、人間の意識は自分の関心のあるものにだけ向かい、それ以外のものは認識できなくなってしまうという現象です。


これと同じメカニズムで、起こる現象が「カクテルパーティー効果」。こっちの方が選択的注意よりも有名かも知れませんね。


パーティーのようなザワザワした状況では、自分が参加している会話以外はすべて雑音にしか聞こえない(あるいはそもそも意識に上らない)のですが、少し離れたところで自分の噂話が始まると、突然その話だけ雑音から切り離され、きちんと言葉として認識されるという現象です。


特に意識しなくても、自分にとって重要な情報は、情報として脳に届いてさえいれば認識の対象になるということなのです。裏を返せば、自分にとって重要な情報(数を数えるという目的に紐づいていたり、自分自身にまつわることなど)以外は、見えていても、聴こえていても認識しないということ。


さて、これを口コミマーケティングに置き換えると、企業が自ら発信する情報は重要度が低く、口コミ情報は重要度が高いということになります。



まず前提として、現代の資本主義が高度に発達した消費社会では、自らの金銭的リソースの範囲内で、なるべくよい商品・サービスを手に入れ効用を最大化するという営みが生活の中心になっています。


そしてそれを実現するためには、なるべく良い商品・サービスを得るための情報が重要になるわけですが、どの情報の信頼性が高く、どの情報が低いかということは明確にスコア化されているわけではありません。


そうなると、自分が消費する前の参考情報として一番重視されるのは、利害関係のない(と思われる)第三者の口コミになります。


ポイントは「利害関係のない」という部分です。その商品・サービスで利益を得る企業と利害関係のない情報は純粋な評価だとしてとらえられるのです。一方で、手前味噌の本人情報は、あらかじめポジショントークだというレッテルを貼られてしまいます。


このレッテルによって、企業が発信する情報は無意識に消費者からスルーされ、届かなくなるわけです。


2. 消費者の無意識の壁を乗り越えるために「口コミ」が効果を発揮する


信頼性が高い情報は重要度が高い、信頼性の低い情報は重要度が低いということになり、人々にとって企業の発信する情報は認識の対象外になるわけですが、まずは口コミを作り、消費社会を生き抜く重要な情報として消費者の意識に上りやすい状態を作ることが突破口になります。


これは「ウィンザー効果」と呼ばれる現象で、第三者からの口コミやレビューなどの情報によって、信頼感や信憑性が増すというもの。


口コミによって企業や商品・サービスへの信頼感や良いイメージが醸成された状態になって初めて、そのブランドの重要度が消費者の中で上がり、企業の公式情報も調べてみようということになり、一生懸命作ったWebサイトや広告がその消費者にとって認識の対象になるわけです。



そして認識の対象になった企業発信の情報の質も高ければ、「では買ってみようか」という流れになりやすくなります。


もちろん、口コミだけで売れてしまう場合もありますし、第三者情報ではなく、中の人運用やアンバサダー活用などの第1.5者、第2.5者のような中間的な存在で消費者にとっての重要度を高めるという方法論もありますが、原理的にはすべて同じです。


3. 「何を言うかより誰が言うか」よりも接触回数が重要という、見落としがちな事実


口コミが重要だと言うと、「じゃあ多くのファンから信頼されるインフルエンサーに口コミしてもらおう!」となることが多いでしょう。いわゆるインフルエンサーマーケティングです。


「何を言うかよりも誰が言うか」が大事だという話は、ソーシャルメディア界隈で多くささやかれています。それはそれで正しい。しかしながら、この話ばかり強調すると見落としがちなこともあります。


人間の記憶の特徴として、「何」は憶えているが、「誰」はあまり覚えていないということです。



たとえば、フォローしている友人の田中さん、鈴木さん、斎藤さんが大手ドーナツチェーンであるドーナツキングの新商品「もちとろリング」について、それぞれSNSなどで「ドーナツキングのもちとろリング美味しい!」と投稿していたとします。


全部でもちとろリングのツイートが3imp、一回ずつ読んでフリクエンシー3なわけですが、おおよそ3回ほど見たら助成想起率は50%くらいなものでしょう。記憶は一旦定着したと言えます。


そして街中を歩いていて、ドーナツキングの看板を見つけました。その時に連想的に想起されるイメージですが、当然ですが、美味しそうなもちとろリングのイメージですね。さて、そのイメージの中に、ドーナツを頬張る田中さん、鈴木さん、斎藤さんはいるでしょうか?


多くの場合、想起されるのは、美味しいもちとろリングのイメージだけなのです。


せいぜい、「誰か忘れたけど、美味しいって言ってたな、もちとろリング」くらいの感じです。そして実際に食べてみて、美味しいと思ったら、もちとろリングを美味しいと言っていた当の田中さんに、「あれ美味しかったー」などと教えてあげるようなボケまでかますことも珍しくありません。


じゃあどんなimpでも同じか?というとそうではありません。誰かの口コミであることはやはり決定的に重要ではあるのです。というのも、先にお伝えした通り、企業発信での情報は信頼性が低くなりがちなので、認識してもらいにくいからです。


利害関係のない第三者の口コミであったからこそ、情報が受け取られ、それが3回繰り返されたため、記憶に定着したわけです。



記憶の「定着」と「想起(思い出すこと)」というのは、厳密には違う脳の働きです。


脳はイメージをバラバラに分解して格納しており、思い出すときはそのイメージを各神経細胞から呼び出し、統合してイメージを再現します。なので、想起されるたびにそのイメージは変わります。そこで「誰が」が強く想起されるかは時と場合によりますし、想起されないケースも多いわけです。


誰が言うかはたしかに大事。しかし誰が言ったかは憶えていないのがソーシャルメディアだとすれば、その誰にあたる部分は、シンプルに第三者であればいいということだったりします。信頼性の高い誰かである必要はないです。



もちろん、誰が言うかの誰かのチョイスが重要なことはあります。普通の人100人より、マツコ・デラックスさん1人の発言の方が重要なことも多々あるでしょう。


それは、「訴求したい商品×訴求する誰か」の組み合わせが極めて絶妙な場合(たとえば豆乳ダイエットで激やせしたことで有名な高橋さんが薦める豆乳ブランドなど)か、高関与商品の場合(車や冷蔵庫のような商品購入の際慎重に検討される商品など)はそうです。


しかし日常生活で接する商品の多くは低関与ですし、組み合わせの妙を発揮できるようなものでもないため、必要な口コミは、強力なインフルエンサーのひと言よりも、普通の第三者の好意的な意見が多くあることの方がずっと重要なのです。


今回の「もちとろリング」の記憶のパーツとは何か?整理してみましょう。



  • 田中さん

  • 鈴木さん

  • 斎藤さん

  • ドーナツキング

  • もちとろリング

  • 美味しい


上記の6つです。


上記の組み合わせだと、「各人×ドーナツキング×もちとろリング×美味しい」というイメージはそれぞれ1impになります。しかし各人という要素を抜かすと「ドーナツキング×もちとろリング×美味しい」のイメージは3impなのです。


人の部分はすっかり忘れてしまい、人を抜かしたイメージだけ憶えているというのはつまりそういうことなのです。


人間にとってのイメージとは、記憶のパーツと、それぞれのパーツの関係でできており、記憶そのものも、まさにパーツとそのパーツ同士の関係性で出来ていますが、しかし想起される時に呼び出される記憶のパーツはすべてとは限らないのです。


今回のケースですと、ドーナツキングの看板をみたことによって、ドーナツキングという記憶のパーツが呼び出され、それと関係性の深いもちとろリングと美味しいというパーツも呼び出されましたが、しかし田中さんや鈴木さんや斎藤さんという記憶のパーツとのつながりは弱かったため、呼び出されなかったということです。


4. ガイアックス 重枝義樹の過去記事


・炎上はSNSアカウントを持たなくても起こるし、そもそも予防不可能。そして発生してからが本番

・自粛? 通常運転? 自然災害発生時のSNSアカウントはどう振る舞うべきなのか

・ビジネスチャンスは今。進行するダークソーシャル化と対応の仕方

・5分でわかるソーシャルメディアマーケティング

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この記事を書いた人:重枝義樹

マーケター。ソーシャルメディアマーケティング事業部 部長。ガイアックスでは大手企業、官公庁中心にソーシャルメディアマーケティングの支援を行う。ガイアックスでの5年に及ぶ経験をもとに、本気でソーシャルをやりたい人のためにSNS禁止のガチ勉強会も行う。

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