45日間で30万ものUGCを創出。おにぎりアクションから学ぶ、UGCを生み出す仕掛けとは【イベントレポート】

2020/10/06


開発途上国が抱える食料不足問題と、先進国の食品ロスと健康問題。世界中の「食」の不均衡解決を目指すNPO法人、TABLE FOR TWO Internationalでは国連が定めた10/16の世界食料デーに合わせてSNSを活用したキャンペーン「おにぎりアクション」を実施しています。


実際に2019年は、わずか45日間で約30万件ものUGCを創出することに成功しました。先月ガイアックスではそんな同団体をお呼びして、ウェビナーを開催。今回はそのイベントレポートになります。


SNSユーザーやインフルエンサー、そして協賛企業をも巻き込んで大成功した「おにぎりアクション」の仕掛けについて、TABLE FOR TWOの池田 いづみ氏にその裏側をうかがい、改めてソーシャルメディアマーケティングにおけるUGCの活用について考えました。


Moderator / 株式会社ガイアックス ソーシャルメディアマーケティング事業部 事業部長 重枝 義樹

Text / 大木 一真


プロフィール


特定非営利活動法人 TABLE FOR TWO International

池田 いづみ氏



TABLE FOR TWO Internationalと「おにぎりアクション」とは?:世界の「食」の不均衡解決を目指す


池田 いづみ氏:「おにぎりアクション」というキャンペーンについて、今回はご紹介させていただきます。TABLE FOR TWO(以下、TFT)では、世界の75億人の人口がいるうち、約10億人が飢餓や飢えで苦しんでいる一方で、先進国の20億人は食べ過ぎが原因で肥満や生活習慣病に苦しんでいるという現状がある中で、「世界の食の不均衡を解決していきたい」というミッションを掲げて活動しています。


主な事業として、企業の社員食堂向けのプログラムを展開しています。私たちが定めているヘルシーな食事メニューを企業の食堂に導入いただき、社員の皆さんにヘルシーな食事を食べていただきます。


その食事代のうち、20円分が支援先であるアフリカやアジアの子どもたちの給食になる、といったプログラムになっています。現在は700もの、企業・団体とお取り組みをしています。



私たちが2015年に「おにぎりアクション」を立ち上げた経緯としては、10月16日の世界食料デーに合わせてたくさんの方が参加でき、「食」の問題を知ってもらえるようなキャンペーンができないだろうか、という考えから始まっています。


そこで「日本食から世界を変えていきたい」と思い立ち、日本人の生活に身近な存在である「おにぎり」をモチーフにすることになりました。



具体的なキャンペーンの内容としては、おにぎりにまつわる写真を特設サイトやInstagram、TwitterといったSNSに「#OnigiriAction」のハッシュタグをつけて投稿いただくと、協賛企業が寄付し、TABLE FOR TWOを通じてアフリカやアジアの子どもたちに給食が届くという仕組みになっています。


初年度の2015年は、特設サイト内のみで投稿を募集したということもあり、5,500枚ほどが投稿されました。翌年の2016年からSNSも対象にしたところ、非常に広がりのあるキャンペーンになりました。



直近の2019年には、期間中に30万枚もの写真が投稿される規模にまで成長しました。


なぜUGCがソーシャルメディアマーケティングで重要だとされているのか



重枝 義樹:ありがとうございました。ここで、なぜ「ユーザー投稿」が今後のマーケティングにおいて重要なのか、その理論についてお話させていただきます。


そもそも、ソーシャルメディアマーケティングはどのように変化してきたのでしょうか。これまでの企業のSNS活用は、とにかく企業の公式アカウントのフォロワーをいっぱい集める、あるいは、企業の公式アカウントの投稿をバズらせることをKPIとして行ってきました。


これは従来のマスメディアと同じような形式であり、一方通行の発信です。しかしSNSが浸透した現在、メディアや企業の権威がだんだんと剥がれ落ちており、「発信力」が個人に移動してきています。


企業のアカウントに多くのフォロワーがつくことではなく、その企業がどれだけソーシャルメディアのユーザーに認知され、そして良い形で話題化されるか、それによってインプレッションと口コミが増えていくか、これらがよりマーケティングに有用なのです。



その背景には、世の中の情報流通量が指数関数的に上がってきているという現状があります。だから、「広告を発信しても見られない」「企業のアカウントで発信しても、ほとんど見られない」という状況が起きているのです。つまり、消費者は日常で接する情報のほとんどをスルーしています。


そこでソーシャルメディアマーケティングにおけるKPIは、企業やブランドへの言及数や「UGC(ユーザー・ジェネレイテッド・コンテンツ)」と呼ばれる、ユーザー自身が撮影した写真や動画、テキストといったコンテンツの数、そしてそれらへのエンゲージメントがより重要であると言われるようになってきました。


今後、マーケターはどのように情報を届けてくべきなのか


では我々マーケターは、どのようにして消費者や企業に情報を届けてくべきなのでしょうか。これからの広告は、2つの方向性に分かれていくと考えています。


■アドテックによる最適化広告



アドテック技術の向上で、広告をピンポイントで届けたい人に当てることができるようになると、数ある情報の中から見てもらえる確率が高まります。しかし、昨今は個人情報やプライバシー侵害の問題がクローズアップされ、大手プラットフォームからのデータを取得することが制限されているという課題もあります。


■UGC・口コミ


もう一つが、UGC・口コミの活用です。企業が発信した情報や、広告っぽい情報は避けられるようになりましたが、自分の友達や利害関係のない人の口コミであれば、つい見てしまう、参考にするという傾向があります。



情報発信の主語が企業である場合、情報のコントロールは可能ではありますが、その反面、影響力は小さいものになります。しかし、主語が一般ユーザーとなっくれば、情報はアンコントローラブルになるものの、影響力は非常に大きくなります。


しかも、アカウント数も一般ユーザーの方が圧倒的に多いので、結果的にインプレッションがものすごく大きいものとなります。つまり、一般ユーザーやファン、あるいは経営者や従業員たちに口コミを広めてもらい、話題化させることが重要になってきています。本人よりも、第三者から情報が伝わる方が効果が高いという、「ウィンザー効果」がその根拠です。



これからのソーシャルメディアマーケティングでは、企業やブランドに関する情報は自然に発生するような、エコシステムを作っていく必要があります。まさに、「おにぎりアクション」でやられていることが、どの企業のブランドにも必要になってきます。


ここからは池田さんに「おにぎりアクション」の成功事例をお話しいただきます。


SNSユーザーやインフルエンサー、協賛企業を巻き込み、30万ものUGCを創出


池田 いづみ氏:ではここから、「おにぎりアクション」の施策の前に、昨年のキャンペーンの成果からご紹介します。


2019年の「おにぎりアクション」は45日間開催し、1日平均でおよそ6,500枚のおにぎりにまつわる写真が投稿されました。参加人数では、およそ80万人の方々にご参加いただいた計算です。



この結果、160万食の給食をアフリカやアジアに届けることができました。通常こうしたハッシュタグキャンペーンでは、数千から数万投稿が一般的ななか、合計30万枚もの投稿がなされました。


「おにぎりアクション」に共感いただいた方々が創意工夫して投稿してくださっており、そこに自分の想いも乗せてくださっているので熱量はかなり高いと思います。その熱が、フォロワーや友達、家族に伝わることで広がったのでしょう。



「おにぎりアクション2020」に賛同する協賛企業・自治体の数々


いわゆる「インフルエンサー」のような方にも参加いただいていますが、私たちから声をかけてお願いをしたことは一切ありません。また、2019年からはベネッセ様にご参加いただきまして、学校関係者や生徒の参加数も1.5倍に増えました。





 












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TABLE FOR TWO(@tablefor2_official)がシェアした投稿






熱のこもったユーザー投稿が集まる。また、それらをリポストしている


最後に、一番印象的だったエピソードをご紹介します。「お~いお茶」の箱に入った猫ちゃんとおにぎりの投稿に、「『お~いお茶』を箱買いしてます。」と書かれていたので、我々が驚いてお声掛けさせていただいたところ、「せっかくだったら(おにぎりアクションに)協賛されてる企業さんの商品を買いたいなと思って。これからもずっと買いますよ」というお返事があったのです。


参加者の方々だけでなく、協賛企業も一緒にキャンペーンを作っていると感じてくださる方が多く、協賛企業に言及した口コミも見受けられます。今年もトップスポンサーでご参加いただいている日産セレナの企画を参加者の皆さんに紹介をした際も「日産ありがとう!」「私のセレナの企画です」といった投稿もされていました。


「おにぎりアクション」を成功に導いた仕掛けとは


「おにぎりアクション」の裏側ということで、「なぜここまで参加ユーザーが増えたのか」をお話しさせていただきます。そこには「コンテンツ設計」と「リレーションシップ創出」の2点がポイントであると考えています。


■コンテンツ設計


1:アテンションを引く説明



「おにぎりで世界を変える」というキャッチフレーズをTFTではさまざまなシーンで使っています。このフレーズ、「おにぎりアクション」を知らない方からすると「おにぎりで世界を変えるって、どういうこと?」と思われるのではないでしょうか。


身近な食べ物の「おにぎり」と「世界を変える」という組み合わせで、忙しい毎日の短い時間の中で、「何これ」と考えてもらえるようなネーミングを考えました。


2:誰にでもすぐに理解しやすいシンプルさ


「何これ」と思ったあと、スマートフォンで検索されると思うのですが、その検索した先に、すごく長い説明文や小難しいことが書かれていると、おそらく参加まで行き着かずに離脱されてしまうかと思います。そこで「おにぎりアクション」では、検索の先に「おにぎりの写真が、アフリカ・アジアの子どもたちの給食になる」とだけ、シンプルなメッセージをお伝えしています。


3:参加ハードルの低さ



参加条件として、「おにぎり」にまつわる写真であれば何でもOKとしています。おにぎりを作っても、買っても、書いても、ポーズで表現してもOKです。「自分でもできるかもしれない」というハードルの低さをどう設計するかはかなり考えたポイントです。


4:自分ごと化しやすいワード選定


ハッシュタグキャンペーンにおいて、「どんなハッシュタグにするか」は、とても大事です。特にInstagramには、自分の投稿の世界観を崩したくないという方がたくさんいらっしゃる。そうした投稿の中でも、「浮かない」「恥ずかしくない」「かっこいい」と思っていただけるようなハッシュタグにこだわるため、日本人からは少し遠い印象を与えてしまう「チャリティ」という言葉を使わずに「アクション」としました。


■リレーションシップ創出



どうやってこの企画を参加者の皆さんと作り上げていくのか、そのリレーションシップのポイントをご紹介します。


1:参加者が中心になる


公式アカウントという、遠い存在から呼びかけられても、皆さん参加するまでには至らないと思います。しかし、身近な人の「このキャンペーンで楽しんだよ」「やってみませんか」という投稿であれば、参加してみようかなと感じてもらえるはず。そこでTFTはあくまでも「裏方で徹する」ということを大事にしています。


2:余白を残しユーザーのクリエイティビティを刺激



「おにぎりにまつわる写真の投稿であれば何でもOK」という参加基準が余白になっています。皆さん本当に創意工夫をしており、それぞれのオリジナリティを加えて投稿しているので他の人の投稿を見るだけでも面白い、自分もやってみたいという楽しみに繋がっていると感じています。


3:インフルエンサーのアンバサダー化


記者発表会を毎年やっているのですが、ここに記者やメディア関係者の皆さんだけでなく、おにぎりアクションに参加していただいているファンユーザーの皆さんもお呼びしています。記者会見を通して、ファンユーザーの皆さんに企画の趣旨を丁寧に伝え、共感してもらえるように努めています。そこで投稿を強制したり、投稿内容を強制したりは一切していません。


4:ファンユーザーとのコミュニケーション



縦の関係ではなく、横の関係を意識してコミュニケーションを取っています。ともすれば、企画者と参加者は縦の関係になりやすいのですが、「あくまでも企画を作り上げるのは、参加者の皆さんである」と伝えるようにしています。


公式アカウントはどうしても遠い存在になりがち。でも、もっとフレンドリーでお友達とやりとりしているように感じてもらうことで、より気軽に発信していただけるような流れを目指しています。


最後に:「おにぎり」から、世界と日本の食料問題を考える


「日本の食から世界を変えていきたい」という思いから立ち上がった企画です。「おにぎりアクション」を通して、10月の世界食料デーを皆さんにもっと知っていただき、食料問題を考える機会を提供していきたいです。


また、あくまでも計算上ですが2019年の期間中は、100万トンものお米がおにぎりアクションで消費されました。昨今、若者のお米離れでお米の消費量が減っているという現状もあるなかで、日本の食文化を広めていくことにも繋げていきたいなと思っています。


「おにぎりアクション2020」のお知らせ









「おにぎりアクション2020」10月1日(木)〜10月31日(土)まで開催中!


おにぎりにまつわる写真に #OnigiriAction を付けてSNSまたは特設サイトに投稿すると、協賛企業が寄付し、TABLE FOR TWOを通じてアフリカ・アジアの子どもたちに給食5食が届きます!

https://onigiri-action.com/


告知:Udemy動画講座「実例から学ぶ最先端のソーシャル・マーケティング戦略」【※期間限定無料※】



今回登壇されたTABLE FOR TWO International様が講師のオンライン学習プラットフォームUdemy(ユーデミー)の動画講座を、期間限定で特別に無料公開します(通常価格6,000円)。


【10/10 8:59AM まで、こちらのURLから無料で登録いただけます!】


※この期間までに受講を開始いただければ、受講期限なく視聴ができます。

※受講にはUdemyへの会員登録が必要です。

※Udemyに関するお問い合わせは、Udemy社サポート(support@udemy.com)までお問い合わせください。


【講座概要】


限られた予算の中で、いかに多くの人の心をつかめる企画を作るか? そのヒントを実例から学びます。


日本で初めて「アジア・マーケティング3.0・アワード」を受賞した「おにぎりアクション」の担当者が様々なゲストと一緒に、ファンを作る秘訣をお伝えします。


【こんな方におすすめ】


• 企業のマーケティング担当で、企業イメージ・商品イメージの向上やファンの獲得に取り組んでいる方

• 多くの共感を集められる商品・サービスの設計がしたいと考えている方

• ファンづくり、知名度をあげることに苦労されていると悩んでいる行政の広報担当の方

• 良い活動をやっているはずなのに、なかなか活動が認知されない、広まらないと悩んでいるNPO法人の方