Twitterの歴史と思想、4人の創業者たちのドラマ~Twitterはどこから来て、どこへ向かうのか~【前編】
2015/02/19

Twitterの歴史
まずはカンタンにTwitterの歴史を振り返ってみましょう。 Twitterがサービスを開始したのは2006年3月21日。共同創業者であるジャック・ドーシーが世界で初めて投稿したことにちなみ、この日を誕生日としています。そういえば来年でちょうど10週年を迎えますね、何か大きなイベントでも開催するのでしょうか?just setting up my twttr
— Jack (@jack)
Twitter社の中核人物は誰?
例えばFacebookを生み出した中心人物といえばマーク・ザッカーバーグが有名ですよね。同じように、アップルといえばスティーブ・ジョブズ、マイクロソフトといえばビル・ゲイツが思い浮かぶのではないでしょうか。 では、Twitterと聞いて想像するのは誰でしょう? ・・・パッと浮かばない方が多いかもしれませんね。 2014年4月に発売された書籍「ツイッター創業物語 金と権力、友情、そして裏切り」によると、Twitterの開発には4人の中心人物がいたとのことです。
エヴァン・ウィリアムズ
ブログサービスの先駆けである「Blogger」をGoogleに売却し、あっという間に億万長者となったビジネスマン。
ジャック・ドーシー
刺青を入れた無名のITオタク。Twitterのミニマムコンセプトを発案した、次世代のスティーブ・ジョブズと呼ばれる人物。
ビズ・ストーン
Bloggerというサービスに憧れGoogleに入社。後にウィリアムズを追いかけ、ストックオプションを放棄してまでGoogleを退社してTwitter創業に関わった。Twitterにおけるコミュニケーションの核を担う。
ノア・グラス
人生のすべてをTwitterに捧げたにも関わらず会社を追放され、会社の公式な創業物語からも葬り去られた共同創業者のひとり。
どうでしょう、個々の人物がもつストーリーだけでワクワクしてきませんか!?
Twitterはひとりの天才によって生み出されたサービスではなく、4人の個性も才能も出自も業績もバラバラな面々が、それぞれの特性をサービスに活かして組み立てられたもので、純然たる「創業者」は存在しないのですね。
故に、マーク・ザッカーバーグのような矢面に立つカリスマがいないのかもしれません。
参考書籍:
ツイッター創業物語 金と権力、友情、そして裏切り
Twitter設計の立役者、ノア・グラスが追放されたワケ
ベンチャー企業の成長には、会社内のドロドロした人間関係がつきもの。気の合う仲間と仕事を始めたものの、大きなお金が動き、株主やステイクホルダーの思想が流入するにつれ、盤石だった人間関係や組織は次第に揺らいでいきます。 その渦中で会社を追放された、共同創立者のノア・グラス。彼は会社の創業物語にも名前が載っておらず、まさに存在していないがごとく扱われている人物です。「Twitter」というネーミングを考えたのは彼だというのに…。 アメリカの人気メディア「Business Insider」によるグラスのインタビューにてその追放劇が初めて語られたわけですが、真実ははっきりとしていません。エヴァン・ウィリアムズとの権力闘争があったとも、グラスと仲が良かったと言われているジャック・ドーシーが後ろで糸を引いていたともいわれています。
ノア・グラス追放の経緯
よく知られているノア・グラスの物語を紹介しておくと、まず彼はTwitterの前にOdeo(オデオ)というスタートアップの共同創設者を務めていました。そこに投資して共同創設者兼CEOになったのがエヴァン・ウィリアムズ。 Odeoは当時、ポッドキャスティングのプラットフォーム化を目指していました。しかしAppleが先にiTunesをリリースし、Odeo社内はてんやわんやの大騒ぎに。CEOのウィリアムズは新しい事業を生み出さなければならなくなりました。 その際にグラスとジャック・ドーシーが提案したのがTwitterの原型です。前述のとおり、「Twitter」というネーミングは彼の発案によるものです。コンセプトを気に入ったウィリアムズは、グラスに責任者を任せることにしました。 Twitterの虜になったグラスは、次第にこのプロジェクトを切り離して独立した会社にしたいとウィリアムズに提案するようになります。しかしウィリアムズは、Twitterを含めたOdeoの会社資産をまるごと投資家から買い上げて、社名を「Obvious」に変え、同時にグラスを解雇してしまいました。 何とも釈然としない話ですが、ウィリアムズは合理的にものを考える人だったそうで、次代のTwitterを含めたプロジェクトにグラスは不要と判断したとも言われていますが、やはり真実のところははっきりしていません。 そして、こうしたいざこざはウィリアムズとドーシーの間にも起こることになるのですが、詳しくは後述します。 参考記事: 忘れ去られたツイッター共同創業者:Twitter’s Forgotten Cofounder, @Noah Glass – Business Insider TwitterとSquareの創業者、ジャック・ドーシーとは誰か?Twitterの理念は誰によって生み出されたのか
日本でTwitterが流行りだした当初、つぶやく内容は「◯◯なう」といった自分の状況を知らせる内容が多かったことを覚えているでしょうか。 この「自分のステイタスを公開する、自己表現としてのサービス」という思想を持っていたのはジャック・ドーシーでした。Twitter社のスローガンが「What’s Happening?(いま、なにしてる?)」だったことを記憶している方もいるでしょう。
「いまなにしてる?」から「いまどうしてる?」に
2009年11月頃、この問いかけが「いまなにしてる?」から「いまどうしてる?」に変わりました。 大した違いではないように思うかもしれませんが、前者だと「自分」を中心とした投稿が思想の元になっているのに対し、後者は「自分以外の誰か」が投稿のメインとなります。 これはTwitterの設計思想上、かなり大きな変化となりました。 ちなみにこの思想を推し出したのは、エヴァン・ウィリアムズ。彼はTwitterについて「自分のことではなく他人の物語を伝えるツール」という思想を持っていました。実際の使われ方の変化もあり、彼の思想へと方向性の舵を切ったことになりますね。 そのウィリアムズに「Twitterのアイデアを生み出した天才」として賞賛され、2007年にCEOへと就任していたドーシーは、2008年10月、ウィリアムズにCEOの座を明け渡していました。これはドーシーに経営能力はないと株主たちに判断されたことが大きかったようです。 参考記事: Twitter、魅力と成功の秘密は創業者の内部対立?「説明しづらさ」が奏功 Twitter、「いまなにしてる?」から「いまどうしてる?」へTwitterは誰かひとりの思想の下で動いている一枚岩のサービスではない
こうして新しくCEOとなったウィリアムズの下、Twitterは「自分以外の誰か」を中心とした設計に変わることとなりました。 つまり、Twitterは誰かひとりの思想の下で動いている一枚岩のサービスではないということです。共同創業者たちによってその思想は二転三転し、ユーザーとしては全く違和感のないままに、裏側ではこんなドロドロの社内政治が行われていたんですね。
ソーシャルメディアの歴史における分水嶺となった買収劇
2008年11月、Facebookのマーク・ザッカーバーグが、当時収益がゼロに近かったTwitterを5億ドルで買収しようとしました。現在それぞれが別の道を歩んでいることからもこの買収が失敗に終わったことはわかるかと思いますが、実はこの買収劇にもジャック・ドーシーとエヴァン・ウィリアムズが大きく関わっています。
運とタイミングの悪かったザッカーバーグ
5億ドルの中にTwitterの潜在的な成長による価値が含まれていないと判断したエヴァン・ウィリアムズは、この買収を断りました。新しくCEOに納まったばかりであったウィリアムズにとって、Twitterは希望に満ちていたのですね。ザッカーバーグにとっては運とタイミングが非常に悪かったと言わざるをえません。 この買収劇に関して、ウィリアムズはブログでこのように述べています。その買収提案は巨額だった―投資家始めTwitterの関係者全員にとって大成功を意味した。しかし私には魅力がなかった。当時われわれはまだちっぽけで、将来性を疑う声も依然として多かったが、私はTwitterの可能性は無限だと考えていた。 Twitterの場合、われわれは誰も売る気がなかった。私はCEOになったばかりで、Twitterの成長のために全力で働こうと張り切っていた。われわれのチームは全員そうだった。それに買収を提案してきた会社はわれわれと特に相性が良さそうに思えなかった―もし相性のいい会社だったら皆大喜びしたはずだ。 FacebookはTwitter買収に失敗していた―『Twitterの誕生―金、権力、友情、裏切りの物語』近刊より引用ちなみにウィリアムズは以前、GoogleにBloggerを売却した経験があるので、買収の意味合いについては理解していたものと考えられます。この買収劇は今につながるソーシャルメディアの歴史における分水嶺と言えるでしょう。
TwitterがFacebookに買収されたとしたら…?
もしもこのとき、TwitterがFacebookに買収されていたとしたら、2015年のソーシャルメディア界隈はどうなっていたのでしょう?ソーシャルメディアラボがその可能性について考えてみました。 ・Facebookが世界におけるソーシャルメディアのシェアの内、9割を奪っていたのでは? ・FacebookのタイムラインとTwitterのタイムラインが並列で表示されるUIになっていたかも。 ・Twitterの匿名可能性に準じ、Facebookは実名制の姿勢を崩していた? ・アカウントを統合し、実名・匿名を使い分けながらふたつのタイムラインにポストできるようにしていた? ・Twitterの利点をうまく扱えず、結局切り離すはめになっていたのでは?
隠れたキーマン、ビズ・ストーンが描くTwitterのコミュニケーション設計
さて、ここまでTwitterの歴史と思想を振り返ってみて、ひとりだけ全く触れていない共同創業者がいることにお気づきでしたでしょうか。 これだけゴタゴタがあったというのに、全く関わっていないが如く存在するビズ・ストーン。彼は何者で、何を担っていたのでしょう。 実は彼こそが、Twitterのコミュケーション設計思想に大きく関わっている人物だと言われているのです。人の性質は善、サポートすれば人は善いことをする
ストーンが担っていたのは「伝えること」。 自分が何をしたいのか、会社が何をしたいのか、会社内で今何が起こっているのか。それをユーザーや社員に向けて伝えていきました。毎週のようにニュースレターを発行したり、公式ブログでの執筆、場合によっては直接社員と会って話をし、自分たちが取り組んでいることがどれだけ大事であるかについて、あくまで明るく前向きに伝える努力をしていました。
「究極的な人間の性質は善である」という思想
ビズ・ストーンが人間を信じていたからこそ、ツールでありながら人間味を持ったTwitterは広く受け入れられたのかもしれません。 考えてみればストーンが入社したGoogleは、優先順位としてテクノロジーが第一で、次に人間がくる会社です。しかしストーンは人間がテクノロジーより先にくるべきだと考えていました。 自身のブログが、GoogleにBloggerというサービスを売却したばかりであったエヴァン・ウィリアムズの目にとまり、それが縁でGoogleに入社できたストーンは、プログラミングもできず大したスキルも持っていませんでした。 プログラミングはただの数式にすぎない。その数式に人間味を吹き込むのがストーンの役目だったわけですね。ユーザーの善意を増幅するツール
人間を信じるビズ・ストーンは、「ユーザーが主役である」ことをコミュニティ哲学のひとつとして置いています。Twitterというコミュニティサービスがどれだけ大きくなったとしても、主役はサービスではなくユーザーにあると説きます。 得てして大きなメディアやプラットフォームを運営していると、自分の手のひらの上で思い通りにサービスを動かしているという、ある種の全能感に陥ってしまうことがあります。Twitterは会社としての意見を持たず、あくまでユーザーをサポートすることに徹するべきであると考えているのですね。 そして、「ユーザーの善意を増幅する」ツールとしてあるべきと捉えているようです。 参考記事: Twitterのコミュニティ哲学とは?創業者の本の解説を書きました悪意は長続きしない
「ユーザーの善意を増幅する」と聞いて、首を傾げる方もいらっしゃるかもしれません。Twitterでは度々炎上騒ぎが起こりますよね。 学生がアルバイト先の飲食店で食器洗い洗浄機に入ったり、コンビニでアイスのショーケース入ったりしているところを写真に撮って身内宛にツイートしたところ、あっという間に拡散されて袋叩きにあい、アカウント閉鎖に追い込まれたり自宅や本名を特定されてしまったりする事件が社会問題にもなりました。
前半のまとめ
さて、Twitterのコミュニケーション思想を支えているのがビズ・ストーンであることが、なんとなく分かっていただけたのではないでしょうか。上記古川健介氏の解説によると、ジャック・ドーシーは140文字のミニマリズム追求、エヴァン・ウィリアムズは個人のメディア力をエンパワーメントする部分で能力を発揮していたとのこと。 Twitterは幅広いユーザーのリクエストに応えられる自由なコミュニケーションツールですが、様々な考え方を持っているのは共同創業者たちも同じこと。個性と個性がぶつかり合って生まれたのがTwitterといえるのかもしれません。 明日公開する後編では、共同創業者4人全員がTwitter社から離れてしまった今、Twitterはどこへ向かうのか、共同創業者たちはどこへ向かおうとしているのかについてをまとめ、その思想の着地点を探ります。以上、『Twitterの歴史と思想、4人の創業者たちのドラマ~Twitterはどこから来て、どこへ向かうのか~【前編】』でした。 明日の後編もお楽しみに!
この記事を書いた人:ソーシャルメディアラボ編集部

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